日本人は「出生率低下」の深刻さをわかっていない 40~50年後に今から備えなければ一体どうなるか

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つまり、現在出生率が低下していることの結果は、40年後、50年後に、きわめて深刻な問題になるのだ。

こうした条件の下で日本社会を維持し続けるための準備を、いまから行う必要がある。

先に、「現時点で出生率が低下しても、高齢化比率や労働力比率が大幅に悪化するわけではない」と述べた。このことを逆に言えば、「仮に現時点において出生率を大幅に引き上げられたとしても、将来の高齢化問題や労働力不足問題が解決されるわけではない」ことを意味する。

出生率を高めることは、さまざまな意味において、日本の重要な課題だ。しかし、それによって社会保障問題や労働力不足問題が緩和されると期待してはならない。

近い将来においては、依存人口が増えるために、問題はむしろ悪化するのである。

将来時点における労働力人口の減少に対処するのは重要な課題だが、そのためには、出生率を引き上げることよりも、高齢者や女性の労働力率を上げることのほうが、はるかに大きな効果を持つ。あるいは、外国からの移民を認めることだ。

女性の就労についての問題は、労働化率の低さだけでない。日本の場合には、非正規労働(パートタイム労働者)が非常に多いことが問題だ。この状況を改善することが必要だ。

また、新しい技術やビジネスモデルを採用して生産性を引き上げ、労働力不足を補うことは可能だ。

超高齢化社会に対応するには、こうした施策を進める必要がある。

雇用延長で対処できるか?

高齢者の労働力率は、これまでも上昇しつつある。

また、年金支給開始年齢を65歳まで引き上げたことに対応して、政府は、65歳までの雇用を企業に求めている。

今後、年金支給開始年齢を70歳にまで引き上げれば、70歳までの雇用延長を企業に求めることとなる可能性がある。

しかし、ここには、大きな問題がある。

それは、日本の賃金体系では、50歳代までは賃金が上昇するが、60歳代になると急激に減少することだ。

組織から独立した形で高齢者が仕事をできるようなシステムを開発する必要もあるだろう。

単なる雇用延長だけでなく、こうした可能性をも含めた検討も求められるのである。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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