6月にウクライナを訪問したイギリスのジョンソン首相は帰国後、「世界中でウクライナ疲れが起こり始めていることが心配だ」と懸念を表した。イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど主要国の内向き傾向は加速しており、筆者の住むフランスでも、ウクライナ情勢をトップで扱うことが減っている。
フランス・パリ政治学院のジャン=イヴ・エーヌ教授は「NATO同盟国は、ウクライナでの戦争の目的に対するさまざまな感情を抑えてきたが、この統一戦線を長期にわたって維持することは今後、より複雑になるだろう」と指摘している。
一方、NATO加盟国のトルコは、クルド系過激派容疑者のトルコ人引き渡しを要求し、トルコへのEUからの武器売却の制限を解除することを条件に、北欧2カ国のNATO加盟を支持した。
ただ、トルコのエルドアン大統領は、約束が履行されない場合は自国での批准はしないとNATO会議後にくぎを刺した。支持率が低下する同大統領は1年後の選挙を念頭にトルコ国内の世論を最重視している。
カリーニングラードが新たな火種に?
世界の人々の最大の懸念は、G7やNATOがロシアへの敵対姿勢を鮮明にし、ロシアを追い込むことで、プーチン氏が抵抗の最終手段として核兵器を使用する可能性があることだ。今回の戦争から手を引く気配のないプーチン氏と、妥協を示さないゼレンスキー氏の対立を欧州がエスカレートさせる危険性は否定できない。そのきっかけになりそうなのが、ロシアの飛び地、バルト海に面したカリーニングラードだ。
カリーニングラードは、これまでリトアニア国内の鉄道と道路を利用し、ロシアからの物資を運んでいた。リトアニアはEUが新たに定めた対ロシア輸出入制裁のルールに従い、6月14日からリトアニア国内を通過するロシアの物資輸送を制限し、結果としてロシアを怒らせた。海路はサンクトペテルブルクからバルト海を通ってだが、バルト海は今後、フィンランド、スウェーデンがEUに加盟すれば、EU8カ国に囲まれる。
関係者は鉄鋼など一部の品目の輸送再開の可能性も指摘しているが、同問題はロシアの報復という意味で大きな意味を持つ。何より領土保全に敏感なロシアは、カリーニングラードを経済的に孤立させるEUに対してロシアへの直接的な攻撃と見なす可能性があるからだ。
カリーニングラードへのロシア製品の従来のルートが回復しない場合、ロシア領カリーニングラードへ物資を運ぶことを阻止するバルト3国に対してロシアが軍事行動をとる可能性は消えていない。バルト3国にはドイツ軍が増派しており、ドイツもロシアの標的となりうる。ドイツはその本気度が試されるわけだが、機能しなければNATOの防衛態勢は大きなひびが入ることになる。
前例のない脅威と前例のない制裁下にある世界だが、その不確実性は高まる一方で、コロナ禍以上の混乱とダメージを与えている。表向き、自由と民主主義の価値観を守る戦いというメッセージだけで突き進めないのが現状だ。1人で意思決定できるプーチン氏との根競べで、西側指導者とその同盟国の指導者が、不安が広がる自国民に対して、強いリーダーシップを示し続けることは必要不可避と言える。
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