ロシアと対決姿勢を鮮明したNATOに忍び寄る不安 ウクライナ侵攻の長期化で加盟国に温度差

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フランスのマクロン大統領は6月実施の下院選挙で、自身を支える与党連合が過半数に届かなかったことから、政治運営が難しくなっており、6月に発足させたばかりのボーヌ首相率いる閣僚の再編も急ぐ結果となり、マクロン氏の求心力は確実に落ちている。

さらに昨年12月に社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党連立政権を発足させたドイツのショルツ首相は、就任早々、ウクライナ戦争が勃発し、武器供与の初動が極端に遅れ、国内外から批判を浴びた。

戦後、連合軍による封じ込め政策で国防は政府の優先政策から外され、国外の紛争への武器供与を基本的に行わないルールが足かせとなり、地政学的にウクライナに近いヨーロッパ最大の大国でありながら、ウクライナ支援で指導力を発揮できなかった。

平和主義優先のSPDは本来、対ロシア宥和派で武器供与にブレーキをかけた一方、人権優先の緑の党はウクライナ防衛のための武器供与に積極的で、同調するFDPがショルツ氏の決断の鈍さを批判している。連立政権が大きく揺らぐ中、ショルツ氏の指導力に疑問符が投げかけられている。

イタリアでは議会最大勢力が分裂

また、ブレグジットでEU域内第3位の大国になったイタリアのドラギ首相も安泰ではない。イタリア議会最大勢力の5つ星運動がウクライナ支援をめぐって分裂しており、ディマイオ外相が旗揚げした新党がドラギ政権を支持する一方、コンテ前首相が率いる5つ星運動内には、来年の総選挙を念頭に政権から距離を置くべきとの声も浮上中だ。

可能性が高いといわれるポピュリスト政党がイタリアで政権を握れば、内政重視でウクライナへの支援は制限を受ける可能性も高まる。つまり、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの首脳の政治基盤は脆弱で、今後、ウクライナ戦争の長期化に備えた各国のウクライナへの軍事装備提供や財政支援、さらに経済に悪影響のある対ロシア制裁措置の拡大や長期化に対して国民を説得するのは容易ではない。

結果として、ウクライナ戦争終結に向けて最も直接的な指導力発揮が求められるヨーロッパの4大国首脳には政権運営で黄信号が灯っている。その4首脳に最も重くのしかかるのが、G7で合意したロシアの軍需産業を支える化石燃料の輸出入規制、軍需産業に必要となる生産財へのアクセスのさらなる制限、ロシア産の金の輸入禁止、ロシアの富豪たち(オリガルヒ)の資産凍結などの制裁で被る西側諸国への悪影響だ。

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