「野垂れ死のう」向かった座間市で予想外の顛末 「どんな人も見捨てない」福祉のプロの支援策

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平日の朝、小田急線の相武台前駅に立てば、市民を乗せた神奈川中央交通のバスが次々とロータリーに入り、仕事に向かう会社員や学生が駅の構内に吸い込まれていく。人波を縫うように子どもを保育園に送る自転車も、東京や神奈川の郊外の私鉄沿線でよく見る光景だ。

陽が高く昇れば、街を行き交う人々の表情も変わる。

駅に直結している小田急マルシェ相武台では、シルバーカーを押した高齢の女性やジャケットを羽織った初老の男性が開店を待つ。駅の周辺に点在する金融機関の店舗を覗けば、近隣の店舗やどこかの会社の従業員と思しき女性がATMを操作している。

お昼時になれば、周辺の事務所で働くビジネスパーソンや住民がランチに繰り出し、午後は午後で、仕事の打ち合わせや主婦グループのお茶会、放課後の学生などで賑わいを見せる。

そして、日が暮れれば、ぽつりぽつりと灯りが点り、帰宅途中の人が家路を急ぐ。ひっきりなしに鳴る踏み切りの音と駅前を走る大通りの大渋滞──。これも、相武台前の日常である。

もっとも、そんな日常とは無縁の生活を送る人もいる。

「ホームレスになって野垂れ死のう」その顛末は

所持金が尽きたらホームレスになり、そのまま野垂れ死にする──。そう思って故郷を飛び出したのに、今はこうして障がい者とともに働いている。何もかも嫌になり自暴自棄になったあの時の絶望は、不思議なことにきれいさっぱり消えた。この1年のことを振り返ると、悪い夢でも見ていたような気分にもなる。

志村恭介(仮名)は東北地方のある街で生まれ育った。山麓に開けた人口2万人前後の小さな街で、すれ違う人も、家族や知人と何かしらのつながりがあるようなところだった。

実家は商売を営んでおり、父母と姉、兄の5人で暮らしていた。特段、成績がいいわけではなかったが、何かに躓くこともなく高校を卒業し、地元の中小企業に就職した。そして、20代で結婚し、2人の子どもにも恵まれた。20年前にはマイホームも買っている。

このように、会社を辞めるまでの半生を書き起こせば、志村の人生はごく平凡なものに見える。現に、目の前に座っている50代前半の小柄な男は、口ぶりこそ訥々としているが、こちらの質問に真摯に答える、至って普通の人物である。

だが、志村には誰にも言えない秘密があった。借金である。

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