「野垂れ死のう」向かった座間市で予想外の顛末 「どんな人も見捨てない」福祉のプロの支援策
寒さに耐えられず神奈川に移動した志村は、相変わらず昼はコンビニ、夜は遅くに道の駅に行くという生活を繰り返していた。
だが、毎日コンビニでぼんやりしているうちに、志村の心境が少しずつ変わり始める。自分の目の前を行き交う学生や会社員を見ているうちに、「自分は何をしているのだろうか」という思いが湧き上がってきたのだ。
すると、無性に働きたくなった。そのためには、住む家が必要だ。自分のように、夜逃げ同然に故郷を捨てた人間でも借りられるアパートはないだろうか。そう思ってスマホで調べ始めると、YouTubeのあるコンテンツが目に止まった。座間市の不動産会社、プライムについて取り上げた動画である。
プライムは、ワンエイドの理事を務める石塚惠が2012年に設立した会社だ。民間の不動産会社だが、座間市の委託で一時生活支援事業や地域居住支援事業を手がけるワンエイドと連携し、高齢者や困窮者など、住居を借りることが難しい人々に住居を仲介している。
ここに行けば、アパートを借りられるかもしれない──。そう思った志村は、スマホのナビに従ってプライムに向かった。
プライムは、日産自動車の座間工場の跡につくられた「イオンモール座間」の目と鼻の先にあった。幹線道路沿いの連棟式の店舗に、プライムとワンエイドが仲良く並んでいる。
店舗に入ると、事務の女性に自分の状況を話し、アパートを借りたいと申し出た。ただ、代表の石塚はあいにく不在だった。
「しばらく多忙なので、1週間後にまた来ていただけないでしょうか」
事務の女性に、そう言われた志村は、神奈川県清川村にある道の駅で寝泊まりし、1週間後に再び訪れた。目の前には、プライムの石塚と、ワンエイドの代表を務める松本篝が座っていた。空を見上げると、分厚い雲が覆っていた。2020年12月22日のことだ。
分岐点は、働く意思の有無
故郷を出奔した時からこれまでのことを2人に説明すると、一度、生活援護課に相談すべきだと言った。そして、3人で生活援護課に行き、自立サポート担当の武藤に事情を話した。
相談を受けた武藤は、「これは生活保護かな」と感じたが、詳しく話を聞くと、本人には働く意思がある。ならば、自立に向けて何ができるかを一緒に考える方がいい。そこで、就労相談員の内山とともに、志村の仕事を探すことにした。
幸いなことに、東名高速道や圏央道などの高速道路が走っている座間市周辺は、物流関連施設があちこちに点在しており、仕事の中身を選ばなければ、比較的求人が多いエリアである。
仕事を選り好みするつもりのなかった志村は、すぐにアパート付きの仕事を見つけた。ある大手小売りのパンを店舗別に仕分ける仕事だ。夜7時から朝6時までの夜勤だが、派遣会社のアパートに入ることができる。
そこで、2021年1月から1カ月ほど働いた後、志村は別の現場に移り、6月までその現場で働いた。節約のため、仕事場までの片道45分は歩いて通った。働き始めたのは冬だったが、暖房器具も入れなかった。
「車中泊に比べれば、家の中は暖かいので……。全く気になりませんでした」
そして、20万円ほどを貯めると、相武台に賃料4万1000円のアパートを借りた。ようやく再出発できる──。引っ越しを終えた志村は、嬉しさを押し殺すようにこぶしを握りしめた。
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