「野垂れ死のう」向かった座間市で予想外の顛末 「どんな人も見捨てない」福祉のプロの支援策

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志村には就労以外にもう一つの問題があった。債務整理である。志村には、住宅ローンを含め2000万円を超える債務がそのままの状態で残っている。税金に加えて国民健康保険料の滞納もあり、健康保険証も使えない状況だ。

早急に債務を整理し、必要な支払いを済ませなければならない。そこで、武藤は職探しと並行して、家計改善支援を受けてはどうかと志村に提案した。

志村が典型だが、困窮状態に陥っている人には、そうなってしまった原因がある。

派遣切りのように収入が途絶えたことが原因であれば、家計改善はそれほど難しくはない。だが、借金がある、そもそも金銭管理が苦手だという人は少なからず存在する。そのような場合、日々のお金の使い方の改善を支援しなければ、再び同じことを繰り返す可能性が高い。

家計改善支援

その点、家計改善支援を受ければ、ひと月に1回、家計相談員との面談があるため、相談者の家計状況をある程度把握することができる。特に、家計相談を手がける座間市社会福祉協議会の場合、相談の際に収入や借入金、基本生活費などを記入した「相談時家計表」を作成し、ひと月のお金の出入りを可視化するため、支出の中で優先すべきものが明確になる。

志村の場合、アパートを借りて自立するという本人の強い思いがあったため、座間市社協で家計相談員を務める中川惠都子と敷金・礼金などアパートを借りる際に必要な経費20万円を貯めるという目標を立てた。金銭にルーズな面のある志村が半年ほどで目標を達成することができたのは、中川が収入と支出を整理し、目標達成に向けて伴走したからだ。

アパートを借りた今の目標は、滞納している税金の支払いと歯医者に通うお金を貯めることだという。

そして、もう一つが故郷に残してきた自宅の処分である。志村が抱える債務を整理するには、自宅を売却し、その資金を返済に充てる必要がある。ただ、逃げるように故郷を出てきた志村は、知り合いの多い地元に戻ることを恐れていた。

そこで、中川は司法書士の古谷理博を志村に紹介し、自宅の任意売却を依頼してはどうかと提案した。古谷は横浜に本拠を置くJBA司法書士法人の代表社員で、家計相談をはじめ座間市社協の支援業務を専門家としてサポートしている。

志村の件でも、依頼を受けた古谷は志村の代わりに現地に飛び、自宅売却の算段をつけた。自宅の中に残された家財道具を処分するため、離婚した妻とのやり取りも代行している。

「現地まで行くのはレアケースですが、必要であれば、どこでも行きます。私は債務整理などのお手伝いはしますが、目標は債務整理ではなく生活再建です。それを担当している社協さんの方が、圧倒的に大変です」

古谷はそう語る。

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