錯覚の科学 C・チャブリス、D・シモンズ 著/木村博江訳
見えていたのに見落とす。記憶していることを即事実と思い込む。俗説や正義や欲が生む陥穽……。人はなぜ錯覚から逃れられないのか。人間の注意力や記憶力、知識はいかに頼りないかを事件や実験や日常性における多くの実例で示されると、誰もが自信喪失に陥るかもしれない。だが、その自信こそ大いに曲者であって自分はよくわかっていると思い込むのは最悪の危険だと知ればますます戸惑うが、人間の脳というものの頼りなさ、心理というものの奥深さと恐ろしさを教えられて興趣は尽きない。
細部が鮮明で強い感情を伴う記憶は要注意だとか、相手の自信を能力の目安として見誤ることが多いなど、応用心理学の最先端がやさしく紹介される。「自己啓発のウソ」の章では、脳トレに励む人にとって衝撃的な事実が脳の機能論とともに詳述されて出色である。頭の体操が楽しめ、かつ実践的意味合いも強い。詳細で親切な参考文献と注釈も読ませる。(純)
文芸春秋 1650円
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