イオンでも手こずるネットスーパー成功者の正体 三重県スーパーサンシに見る弱者・小者の戦い方

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スーパーサンシにおいては「ネットスーパーを黒字化させないとイオンと戦えない、生き残れない」という危機感がそれにあたりました。この強烈な危機感を背景に、スーパーサンシは顧客志向へと舵を切ったのです。そのときスーパーサンシは戦いの目的と手段の両方を変えたのだと思います。すなわちそれが、顧客との親密化という目的のために、リアル店舗ではなくネットスーパーという局地戦でイオンに勝利を収めることでした。

(3)LTV=顧客との長期関係性

「弱者が強者に勝つための戦略」として最もよく知られるのはランチェスター戦略ですが、そこでは大規模な「遠隔戦」を挑むのではなく、相手との一騎打ち的な「接近戦」を挑むべきだと語られます。スーパーサンシはまさに、エンドユーザーと親密な関係を築く戦いを仕掛けました。買い物1件あたりの利ざやは小さくても、月額定額制により顧客に繰り返し利用してもらうことで、利益を積み重ねていく。ネットスーパーの黒字化には、このような関係性が不可欠です。

目線が「顧客」にあるか「競合」を向いているか

おそらく今後、決定的に重要になるのは、企業が目線をどこにおくかだと思います。「他社に顧客を奪われるわけにはいかないので」「海外でも成功事例が出てきているし」「赤字でもいいから、とりあえず」ネットスーパーに進出している大手スーパーは、顧客のほうを向いていません。一方、スーパーサンシは、大手のような資本力は望めないかわりに、顧客に目を向けることができた。

目線が「顧客」にあるのか、「競合」にあるのかの違いと言ってもいいかもしれません。

そもそもデジタル化の本質とは、単なる業務の効率化や売上増を求めることではなく、顧客の声に耳を傾け、それを形にするプロセスの刷新にあるのです。

黒字化への意思や危機感の強さ、顧客志向やカスタマー・インティマシー、そして顧客との長期関係性という「勝負の分かれ目」は、円安や物価高で景気の先行きが懸念され始めているなかで、あなたの会社においても重要になってきているのではないでしょうか。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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