忘れられない一言

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プロゴルファー/小林浩美

 春が近づくと気持ちが明るくなる。たとえ気温の低い日があっても、確実に夏に向かっているからだ。なので、明るい季節の入り口に立ったような気分になる。

さて、あるテレビ局の取材で、「忘れられない一言」というインタビューがあった。すぐに頭に浮かんだのは「Tomorrow is another day」。直訳すれば「明日は別の日」、意訳すれば「明日は明日の風が吹く」といったところだろう。
 なぜ、このフレーズなのか。それは米女子ゴルフツアーに初めてフル参戦した1990年のこと。当時は開幕が1月だったが、初戦から思うような成績が出ず悩んでいた。慣れない米国生活や話すことも理解もできない英語、日本と違うゴルフ場など、うまくいかない理由を並べてしばらくはやり過ごしていたが、日本から大挙して取材に来てくれたメディアの方々の前では気丈に振る舞っていた。3月になると日本ツアーが開幕するのでメディアが戻った後は、ゴルフに集中できるだろうと思ったが、成績は相変わらずだった。

5月、ニューヨーク州コーニングで試合があった。新緑がまばゆい季節だというのに私の心は重く暗かった。初日が終わりスコアは76。翌日3アンダーよりいいスコアで回らなければ、また予選落ちしてしまうという状況だった。前週も前々週も予選落ち。前年日本で6勝し賞金ランキング2位の成績はどうしてしまったんだろう、いったい何が悪いんだろう、考えても考えても暗く落ち込むばかりで、自分のロッカーの前の椅子に座り込み、うつむいて考え込んでいた。どれだけ時間が経ったのかはわからないが、人の気配がしたので選手ラウンジに向かい、ランチを少しとった。しかし、すぐ練習する気にはなれずまたそこでぼーっと座っていた。
 すると、仲良くなった一人の選手が入ってきた。「ヒロミ、どうしたの?」「またスコアが悪くて……」。そのとき「Tomorrow is another day」と言われた。その瞬間、気持ちがパッと明るくなった。「えっ、明日は別の日なの? つながってないの?」と思えた。「悪い日がずっと続くわけではなく、明日は明日なんだ」と素直に思えた。この言葉はそれまでのどんな励ましよりすごくうれしかった。
 「頑張れば何とかなるから」とか「地道にやっていけばいいんだよ」という言葉をもらったときは、余計気持ちがつらくなったけど、「明日は明日なんだ」と素直に受け入れられた。「こんないい言葉、アメリカにはあるんだなあ」と感心もした。その後練習にも行く気になって、「明日はどうなるかわからないけど、一生懸命プレーしよう、できることをやろう」と気持ちがおさまった。

それから米国で優勝するまでの3年間、たくさん悩みが続いたけれど、その都度、自分を明るくする言葉「Tomorrow is another day」を思い出し、自分を励ますことができた。

プロゴルファー/小林浩美(こばやし・ひろみ)
1963年福島県生まれ。89年にプロ初優勝と年間6勝を挙げ、90年から米ツアーに参戦、4勝を挙げる。欧州ツアー1勝を含め通算15勝。現在、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)会長。所属/日立グループ。
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