がん通院1年、65歳彼が自宅で迎えた穏やかな最期 在宅緩和ケアを選び「亡くなる18日前までゴルフ」

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痛みは身体を弱らせる最大の要因です。がんで死ぬのはがんが大きくなったから死ぬのではなく、抗がん剤で身体が弱って死ぬか、痛みで身体が弱って死ぬかが大きな道筋です。ということはできるだけ早い段階から医療用麻薬を使って痛みをコントロールすることが、寿命をめいっぱい生きるために重要になってきます。

希望は大好きなゴルフを続けること

痛みを上手にコントロールして、亡くなる直前まで大好きなゴルフを楽しまれた患者さんもいました。

Kさん(65)は胃の痛みを感じて病院で検査を受けたところ、進行胃がんの診断をされ、すぐに開腹手術をしました。しかし、がんは予想以上に広がっていて切除できず、病院でやるべき治療はないと悟ります。開腹手術を終えた2週間後、Kさんは萬田診療所にやってきました。奥さんに手を取られて、足取りも弱々しい状態でしたが、表情は晴れやかです。Kさんの希望はがんになる前と同じように大好きなゴルフをして、ふつうに暮らすことです。

「いいですねえ。ゴルフですか!」

笑顔のKさんに僕も声が弾みました。その日から診察室で外来通院のKさんと僕の1年間の付き合いが始まったのでした。

医療用麻薬で痛みが和らぐとKさんの体力は回復し、行動範囲も広がっていきました。少量の経口抗がん剤の服用を始めてみるとうれしいことに効果があり、食事の量が増え、副作用も出ません。車の運転もできるようになり、2週間に一度の通院は奥さんを助手席に乗せて、Kさん自ら運転して来るまでになりました。

通院4カ月目。車の運転に続き、庭に出て大好きなゴルフの練習も復活したと教えてくれました。

「この人ったら、朝から晩まで一日中、庭でボールを打っているんです」

「一日中じゃないよ。休み休みだよ。大丈夫ですよねえ、先生?」

にぎやかなやり取りに、僕は「お好きにどうぞ」と答えるだけです。

6カ月目。Kさんはついにゴルフコースに立つことができました。その報告を聞いて、僕は思わず涙が出ました。手術の傷跡も癒えていないふらふらの状態だったKさんが、半年後にゴルフコースをラウンドした!

その後の3カ月間、外来の診察はもっぱら僕とKさんのゴルフ談議に終始し、奥さんは男同士のたわいのないスコア自慢を笑って聞いていました。

しかし、やはりがんは黙っていてはくれませんでした。再びKさんの食事の量が減り始め、痛みが強くなりました。僕は抗がん剤はもう効果がないと判断して、処方をやめました。

通院10カ月目。Kさんは頻繁に嘔吐を繰り返し、とうとう食事が喉を通過しなくなってしまいました。かろうじて喉を通るのは液体のみです。がんが進行して胃の入り口や出口をふさいでしまっていたのです。

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