がん通院1年、65歳彼が自宅で迎えた穏やかな最期 在宅緩和ケアを選び「亡くなる18日前までゴルフ」

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診療所の玄関から診察室までのゆったりと広い廊下は、貸し切りの萬田道場です。外来は1人1時間とたっぷりなので、他の患者さんとかち合うことはありません。僕は患者さんを出迎えながら、診察室に入るまでの歩く様子を観察します。

皆さん、「緊張する~」と言いながら、いいところを見せようと歩く。

「かっこいいなあ。何かいいことあった?」

「ちょっとふらふらしてるよ。トイレが間に合わないよ」

「あ~あ、それじゃあ棺桶の縁を低くしないと棺桶を跨げないよ」

僕はほめたり、悔しがらせたり、笑わせたり。人生の終末期を上手に生きてもらうためのパーソナルトレーナーとして、いろんな手を駆使して患者さんのやる気を刺激して、生き抜くことを手伝うのです。

がん患者さんは歩けなくなったらそこから寝たきりになって何カ月も介護されるという悲痛なイメージを持たれているようですが、そんなことはありません。生きる気力がない人は医療や人の世話を受けながら何年も寝たきりで生きるケースはありますが、死から逃げていない人、家族の世話になりたくない人、下の世話はされたくないとがんばって生きている人は歩けなくなるまで、かなりがんばります。そしていよいよ歩けなくなったら、余力も気力も尽きてそこからどんどん弱っていく。僕の患者さんの場合は歩けなくなってから最大1カ月くらいで亡くなっていきます。

医療用麻薬は最後の薬ではない

萬田診療所の最大の目標である「歩く」ことは、医療用麻薬で痛みがない状態を作れるからできることです。世の中ではがんは最後に痛くなると思われているようですが、実際には突然痛みが現れるのは骨転移による骨折や肝腫瘍の破裂などで、それは滅多にないことです。

がん患者さんが体験するがん疼痛は早期から終末期に至るまであるのですが、早期の痛みのときから医療用麻薬を使えば痛みをコントロールできて、少なくとも痛みに苦しんでのたうちまわって亡くなるということはありません。しかし多くの患者さんは医療用麻薬に警戒感があり、「知人や家族が医療用麻薬を使って亡くなった」「医療用麻薬を使うようになったらお終い」と思っている人が多いのです。

どちらも間違いです。亡くなる直前になってようやく医療用麻薬が患者さんに投与された結果、痛みが軽減されて眠るように亡くなっていっただけで、医療用麻薬の投与が死の引き金になっているわけではありません。

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