大久保がドイツに着いてから約1週間後の3月19日、岩倉のもとに太政大臣の三条実美から手紙が届く。なんでも「大久保と木戸を帰国させるように」とのことである。
ロシアをはじめ、まだ回ってない国が残っていたため、木戸は視察を続けることを希望した。
一方、ドイツに日本の進むべき未来を見た大久保は、もはや十分だという思いがあったのだろう。ビスマルクのこんな言葉を胸に刻みながら、大久保は帰国の道を選んでいる。
燃え上がる情熱を胸に秘めながら帰国したが…
「小国がその自主の権利を守ろうとすれば、その実力を培う以外に方法はない」
これからの日本に「富国強兵」が必要なのはいうまでもない。
だが、そのためには、近代産業技術を導入して、生産を増やして産業をさかんにする。つまり「殖産興業」から着手し、確実に一歩ずつ前進させなければならない。そうして地道に歩を歩めば、近い将来、必ず日本もドイツのように、小国からの発展を遂げることができる。
文明の差に失望した大久保の姿はもうそこにはなかった。やるべきことがはっきりして、燃え上がる情熱を胸に秘めながら、5月26日に横浜に到着する。
だが、日本で大久保を待ち受けていたものは、意外なものだった。武力で朝鮮を支配しようという「征韓論」である。その中心には西郷隆盛、その人がいた。
(第37回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
松本彦三郎『郷中教育の研究』(尚古集成館)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』(講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』(ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
鹿児島県歴史資料センター黎明館 編『鹿児島県史料 玉里島津家史料』(鹿児島県)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵"であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
萩原延壽『薩英戦争 遠い崖2 アーネスト・サトウ日記抄』(朝日文庫)
家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜―将軍家の明治維新増補版』(中公新書)
平尾道雄『坂本龍馬 海援隊始末記』(中公文庫)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人 『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ)
小山文雄『明治の異才 福地桜痴―忘れられた大記者』(中公新書)
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