「育児は簡単な仕事」と思ってた彼の育休後の変化 コロナ禍の今だからこそ「男性育休」が必要な訳

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企業向け研修やコンサルティングを手がけるスリールと、NPO法人ファザーリング・ジャパンの合同調査によると、親族含む産後のサポートについて、コロナ前出産では、サポート希望者の84%が「サポートを受けた」と答えた。一方、コロナ禍出産では、希望していても、52%の人しかサポートを受けられなかったという。

スリールの堀江敦子代表は、「コロナ禍においては、両親学級もなければ、里帰り出産を控える人も多い。自然に描けていたサポートや情報収集の場がほとんどなくなっている」と指摘する。

スリールの堀江代表「ママたちを産後うつから守るには、特に産後2週から2カ月の間が大事な時期。その期間、家族のサポートのもとで少しでも眠らせてあげることが大切」(写真:スリール)

コロナ禍で孤独に育児を始める親が増えるなか、男性育休は、産後うつや産後の女性の自殺防止にも大きく影響すると考えられている。

産後1年までに死亡した妊産婦の死因で最も多いのが「自死」というデータもあり、その原因の1つが「産後うつ」だ。

産後うつになり、夫に一生のお願い

東京都に住む岡田さん(仮名)は、産後うつ経験者のひとりだ。産休に入り、ひとり自宅で過ごしていると、気分が落ち込むようになった。マタニティブルーだと思いながらやり過ごし、無事出産を迎えた。

産後2日経ったころ、産院の病室で過ごしていると、心がざわつき始めた。夜になると、いてもたってもいられず、助産師に相談。すぐに精神科受診を勧められたという。岡田さんは、「産院で、すぐに精神科への受診を勧めてもらえて助かりました。少しでも遅かったら、職場復帰もできなかったと思う」と話す。

産院退院後、投薬治療と併せて、産褥入院や産後ドゥーラなど、考え得るサポートはすべて使った。しかし、「子どもの命を守らなければならない」というプレッシャーからは逃れられず、症状はよくならなかった。「当時、夫に育休取得の予定はなく、朝早くに出勤し、帰宅は21時頃でした」(岡田さん)。

産後2カ月経ったころ、ついに耐えられなくなり、「一生のお願いだから、育休を取ってほしい」と夫に頼んだ。夫は、男性育休取得の前例のない職場にいたが、すぐに上司に相談。半年間の育児休暇を取得することができた。

会社との話し合いの詳細は夫から聞いておらず、すんなり取れたかどうかはわからない。だがそれは、夫なりの配慮だったのかもしれない。孤独から逃れられると、岡田さんの症状も、徐々に良くなっていった。

いま、子どもは5歳になったが、保育園の保護者会には、必ず夫婦揃って出席している。「育児に関しては、今でも自分事として率先して動いてくれます」(岡田さん)。

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