「あえて、女性!」というバイヤーの狙い
「結局は、女性をメインに狙うことにしたんですよ」。田村社長は笑いながら話してくれた。そこには同社の製品戦略を考えるバイヤーの狙いがあるのだという。
バイヤーにはトータルで見た販売データではなく、そのブレイクダウンと、それ以外の定性的な事実が気になっていたという。トータルで見れば男性購入者が上回る果汁飲料の販売数だが、初期段階ではまず、女性が購入しているという。インターネットを見てみれば、新発売した同社の果汁飲料に関してブログやSNS、掲示板などにいち早く書き込みをしているのも女性だ。
「まず、女性が新規購入をして間口を広げ、その後、男性が購入してリピートを重ねるという動きが想定されたのです」と田村社長はいう。同社バイヤーもそこに注目して、女性を意識したネーミングやパッケージにこだわったのだという。
E.M.ロジャースの「イノベーション普及論」では、まず、新しいものに飛びつく「イノベーター」が動き、その後イノベーションの価値を評価して導入する「アーリーアダプター」が動く。その「価値を評価できる人=目利き」の態度を見て、一般的の人々「アーリーマジョリティー」が動く。エキナカ自販機では、イノベーターとアーリーアダプターが女性であり、男性がアーリーマジョリティーであるということなのだろう。だとすれば、バイヤーの狙い通り、女性が購入し、男性が認知しなければ販売は「初速」を得ず、ヒットせずに「失速」することになるのだ。
マーケティングにおける「ターゲット設定」においても、Realistic Scale(規模)、Rate of Growth(成長性)などと並んで、Rank(優先順位)とRipple Effect(波及効果)の評価が欠かせないのである。
ロジックと勘の整合が今後の課題
街ナカの多くの自販機は、どの自販機で何が売れたかというデータは残る。しかし、それが「いつ売れたか」という「時間」のデータが取れない。むろん、性別などの属性は全く取得できない。その意味では、コンビニに大きく後れを取っている。JR東日本ウォータービジネスが次世代自販機とsuicaで取得できるようになった販売データ。それは大きな販売と顧客利便性を高める武器になる。
「まだまだこれからです」と田村社長はいう。まだデータの蓄積が少なく、活用手法も確立していないからだと。
それでも、今勘に頼った今までの商品政策に比べて、ロジックに基づいた戦略立案ができるようになった。今回の「モモごこち」は、ロジックと勘のミックスによる戦略立案だ。その成果は果たしてどのような結果を生み出すのか。今後はさらにデータを活用した販売が確立していくだろう。その中で、勘と経験が整合されていくのか、その行方も非常に楽しみである。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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