「中絶」がタブー視される日本人女性の気の毒さ 中絶がいまだに「罪」とされるのはなぜなのか

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フランスはミフェプリストンを1988年に認可している。中国も1988年で、チュニジアは2001年に、アルメニアは2007年に認可している。ウズベキスタンでも処方されているが、日本の女性にはまだ処方されていない。

また、産婦人科医は多くの国では女性が助けを求める存在だが、日本ではむしろその存在が足かせになっている。実際、彼らは、中絶薬を阻止するか、女性にできるだけ多くの薬代を請求しようと闘っている。

日本産婦人科医会の木下勝之会長(当時)はNHKの番組で、「臨床試験の結果、安全だと判断されれば、日本は中絶薬の導入は仕方がない」としながら、「この薬で中絶が簡単にできると思われないか心配している」「相応の管理料が必要」などとして中絶薬の値段を手術の値段(10万円くらい)に合わせるのが望ましいと語った。

同会長は、医者というより、石油会社の社長のようだ。彼にとって子宮はお金を搾り取る場所であって、女性の体の一部ではないのだ。WHOによれば、経口中絶薬の平均の値段は740円。木下氏は、恥知らずにもその135倍の値段が相当だと主張している。

世界からもだいぶ遅れている

ヒポクラテスの誓いの最初の1行で2400年も前から謳われている、患者を癒やすという職業をあからさまに裏切る医師に、日本の女性はいつまで耐えるべきなのだろうか。日本人はこれ以上、こうした不適切な現状を許すべきではない。政府は、薬による中絶を許可するために、再度、「夫」の同意を求めることを考えているようだが、先進国で女性にそのような要件を課している国はない。

フランスでは、1975年以降、男性98%の国民議会の投票による法律で中絶が認められている。1982年から社会保険から一部還付され、2013年から全額還付されている。日本の女性も男性も、フランス、中国、スウェーデン、ウズベキスタンと同じように、女性のSRHRへの基本的なアクセスを求めるために立ち上がる時が来ているのだ。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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