「中絶」がタブー視される日本人女性の気の毒さ 中絶がいまだに「罪」とされるのはなぜなのか

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「堕胎は、本当は罪である」「自分は罪を犯している」といった罪悪感が、この問題をタブー化させ、女性たちがオープンに議論することを妨げてきたように見える。

この「産む・産まない」という選択は、女性のセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)=SRHRに基づくものだ。しかし、日本では、この用語が定着しているとはとても言えない。実際、「堕胎の罪」が「身体的・経済的理由がある場合のみ」問われないという法制度の下で生きる日本の女性には、SRHRが認められているとはおよそ言えないだろう。

中絶には「夫」の書面による同意が必要(未婚の女性にはその負担がない)であることからも、中絶制度はさらに不条理であることがわかる。このような要求は、出産に関して男性と女性が完全に同調していないという事実をないがしろにしている。日本以外の国で中絶に配偶者の同意が必要としているのは、インドネシアやシリア、モロッコ、サウジアラビアなど10カ国だけである。

妊娠や中絶は当事者だけの選択

男性は、物理的には15歳から65歳まで半日ごとに女性を妊娠させることができる一方、女性は自らが妊娠しなければならず、その期間は9カ月にも及ぶ。しかも、女性が一生の内で妊娠できる期間は男性よりはるかに短い(女性の妊娠可能性は35歳で急激に低下する)。

少なくない数の女性が自らのキャリアが積み上がっていたタイミングで妊娠する。そのため、女性の責任は男性よりもずっと重く、本来であれば妊娠や中絶は当事者だけの選択であるべきなのだ。厚労省は性暴力を受けた女性の中絶など相手から同意が得られない状況においては「同意は不要」との見解を示しているものの、病院によっては中絶が受け入れられない場合すらある。

また、人工中絶を行う場合、少なくとも母体への精神的・肉体的ダメージは最小限にとどめるべきである。海外では何十年も前から、子宮に器具を入れて掻き出す掻爬(そうは)法など時代遅れな方法ではなく、ミフェプリストン(および入手可能な場合はミソプロストールと組み合わせて)という経口中絶薬を服用する方法が用いられてきた。

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