日本の格付け見通しを「ネガティブ」に変更した理由《ムーディーズの業界分析》

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ソブリンリスク・グループ
SVP− トーマス・バーン

ムーディーズは2011年2月22日、日本の格付けAa2の見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更したと発表した。この見通し変更は、経済・財政政策が、赤字削減目標を達成し、債務を抑制できるほど十分に強固なものではない可能性がある、との懸念の高まりに伴うものである。この点で、ムーディーズは、4月に発表される社会保障改革案、6月に発表される包括的税制改革案、および政府の経済活性化プログラムへの経済の反応を、向こう1~2年の見通し期間に、主な格付け要因として注視する。

ネガティブの見通しは、短期から中期にかけての下方リスクが大きくなってきたことを示唆している。短期的に赤字削減が進展した明確な兆しが見られなければ、Aa2の格付けへの下方圧力が低減するとは考えにくい。日本の厳しい財政・経済環境のもと、改革の実行に成功したとしても、短期から中期的に債務の増大が続く可能性があるため、格付けに上方圧力が生じるとはみられない。さらなるリスク要因となるのが、国内の人口動態上の圧力や、世界の経済成長の堅調さに関する不確実性である。

同時に、日本には多くの信用上の強みがあるとムーディーズは認識しており、それが、格付けを支え、政府の財政課題への取り組みへの猶予ともなっている。日本は豊かで、規模も大きく、多角化された経済と、厚みのある金融市場を有している。経済・社会制度における失業率は低く、現在4.9%と、世界的な景気後退期の米国やユーロ圏の約半分の水準にとどまっている。また、生産性の伸びは徐々に低下しているが、規模の大きい先進諸国の中で、依然として最も高い範疇にある(規模の大きい輸出企業の貢献による)。

日本の顕著な強みは、非常に多額の債務負担を、非常に低水準のリファイナンスコストで維持する能力である。その国内投資志向と、日本国債の安全投資対象としての特徴は、短期的に継続するものとムーディーズはみている。しかし、長期的には、徐々に、あるいは突如として、政府のそうした優位性が失われる可能性もある。転換点に達すれば、日本政府の財政が未知の領域に突入することになる。そうしたリスクは次第に高まっているとみられる。

格付け変更につながる要因としては、財政赤字を明確に削減する包括的な税制改革を実行できない可能性と、政府債務市場における国内投資志向の長期的な弱まりが挙げられる。

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