日本の格付け見通しを「ネガティブ」に変更した理由《ムーディーズの業界分析》

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財政の健全性回復に向けて日本が抱える2つの課題

日本を際立たせているのは、政府債務の規模だけではなく、長期にわたる経済の停滞でもある。この2つが、赤字削減を妨げ、それに必要な政策上の選択を困難にしてきた。他の先進諸国も同様に、多額の赤字および債務に対処する状況に置かれ、深刻な財政・経済ショックに見舞われた後、世界的な金融危機の結果、平時では過去にない水準の債務を抱えている。

日本の債務が2007年から10年までの間にGDP比で38ポイント増大したことは、他の高格付けの先進諸国が同時期に経験した状況とそれほど大きく異なっているわけではない*1 。しかし、例外的なのは、世界的な危機を脱したが、日本が非常に高い水準の債務を抱えていることである。これによって、将来における債務削減のハードルが上昇した。民主党・菅政権における国債発行限度額は44兆円と、自民党・小泉政権が2000年代半ばに設定し、維持してきた額を14兆円も上回っている。

IMF(国際通貨基金)は、日本の一般政府総債務は10年度(11年3月に終了する年度)、GDP比で226%となると推定している。内閣府の推定でもGDP比174%に達すると推定されており、これは、格付けAa1のベルギーの101%、Aa2のイタリアの119%、Aaaの米国の90%を大幅に上回る*2

世界的な金融危機および景気後退は、日本の経済および財政にとりわけ深刻な打撃を与えた。経済は2010年、実質ではG7諸国の中でも最も高い成長(GDP成長率3.9%)を示したとみられるが、そのGDPおよび鉱工業生産の水準は07年をかなり下回っている。また、日本のデフレ圧力が引き続き日本の景気回復の足かせとなっている。10年の名目GDP成長率1.8%は、08年および09年の名目GDP成長率マイナス8.8%を相殺するにははるかに及ばない。

長期的な成長シナリオでも、財政ギャップの解消および債務削減は見込まれない

20年までの長期にわたるベースラインの「慎重な」シナリオでも、内閣府は実質でも名目でも1~2%の成長率を上回るとは予想していない。これはつまり、プライマリーバランス(基礎的財政支出)の赤字が向こう10年間で解消されることはなく、債務動向が安定化することはない、ということである。

プライマリーバランスの赤字は、GDP比4.2%にとどまる(図表1参照)。また、政府のより楽観的な「成長戦略」シナリオでも、状況はそれほど改善しない。労働参加率の上昇と、全要素生産性の向上により、20年までに名目GDP成長率は3.8%まで上昇する。プライマリーバランスの赤字は縮小するが解消されず、GDP比2.5%にとどまる。

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*1 IMF World Economic Outlook, October 2010.
*2 内閣府とIMFの推定値の差が生じている最大の要因は、外国為替資金特別会計にかかわる短期政府証券を一般会計に含めていないことである。

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