では、追加接種をすると体の中でどんなことが起こるのか。宮坂さんはワクチン接種によって生じた体の免疫のメカニズムについて、これも有名な科学雑誌『セル(Cell)』に投稿された図で解説する。
ワクチン接種によって起こる免疫のメカニズム
「まず、mRNAワクチンを2回接種する(①)と、抗体ができます(②)。抗体量(抗体価:Antibody Titers)は時間とともに減っていきますが、中和する能力(Neutralization Potency)は反対に高まります(③)。この現象を日本ではあまり理解されていなくて、いまだ“抗体量が低下すると免疫力も弱くなってしまう”と思われています」
ワクチン効果のカギを握るのが、メモリーB細胞という免疫細胞だ。宮坂さんが続ける。
「ワクチンを接種すると抗体だけでなく、メモリーB細胞も作られます(④)。このメモリーB細胞は成熟すると、変異株にも反応する中和抗体を作り出せるようになります。できた抗体は、たとえば、アルファ株には95%、ベータ株には70%、デルタ株には80%、オミクロン株には50%の交叉性(反応)を示し、複数の変異株をやっつけることができます」
オミクロン株への反応性は、ほかの株より低いものの、反応はするので、感染予防効果も一定程度あるという。
「この状態で3回目、4回目の追加接種をすると(⑥)、その都度、メモリーB細胞が刺激され新たに中和抗体を作り始めます。その量は2回目の10~100倍。変異株にも対抗できる中和抗体が、迅速でかつ大量に産生されるのです(⑦)。これが3回目以降、追加接種を必要とする理由です」
ワクチンを打つと、直後に抗体ができるだけでなく、メモリーB細胞も作ってさらに強力な中和抗体を作り出すという仕組みは、免疫学の世界では常識的な話で、実際、麻疹(はしか)やおたふくかぜでも同様のことが起こっているという。
「麻疹やおたふくかぜは、ワクチンを接種すると、このメモリーB細胞が20年、30年残って、中和抗体を作り続けます。しかもこのB細胞が作り出す中和抗体は1個残らずウイルスをやっつけることができる。一度かかると二度と麻疹やおたふくかぜにかからないのは、そのような理由です。このような免疫を殺菌免疫といいます」
ところが、コロナウイルスの場合はそこまで強い中和抗体を生み出すメモリーB細胞ができず、メモリーB細胞自体の寿命も比較的短い。「これが今のコロナワクチンの弱点であり、課題。持続するメモリーを作るワクチンがほしい」と宮坂さんは言う。
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