性別は「いつどのように」決まるか知っていますか 生まれた後「環境に合わせ性」を変える魚の一生
ところが、作製したノックアウトマウスをよく観察すると、奇妙な現象が起きていた。
「通常、マウスはほぼ1対1の割合でオスとメスが生まれてきます。ですが、ノックアウトマウスから生まれた111匹のマウスのうち、87匹がメスの姿をしていました。8割近くがメスだったのです。これはおかしいと思い、マウスを解剖してみると、オスの姿をしているマウスの中に、オスとメスの両方の生殖器を持つマウスを発見しました」
何か妙なことが起きている。そう感じた立花氏は、ノックアウトマウスの染色体を調べた。染色体の組み合わせは、メスになるはずのXXが53匹、オスになるはずのXYが58匹。これだけ見るとほぼ1対1だ。だが、Y染色体を持っているマウスの中には、卵巣を持って完全にメス化した個体が34匹、卵巣と精巣を両方持つ個体が7匹いた。
立花氏は、慎重に実験を重ね、精子形成に重要だと考えられていたJmjd1A遺伝子が、性決定にも大きく関わっていることを証明した。
新発見とは、案外偶然から生まれているもの
ところで、精子形成の研究で先行した海外の研究グループも、同じノックアウトマウスを作製したはずだ。どうしてメスが多く生まれる現象に気づかなかったのだろうか。精子形成のメカニズムについての発見を発表できたことに安心して、見落としてしまったのだろうか。
素朴な疑問をぶつけると、立花氏は「私たちはたまたまというか、偶然に助けられました」とほほ笑んだ。
実は、両グループの結果の違いを生んだのは、実験のために選んだマウスの種類だった。
「彼らが実験に使ったマウスは、私たちが使ったマウスの系統と比べて、Jmjd1Aをノックアウトした影響が現れにくい系統だったのです。
私たちが用いた系統では、Y染色体を持ちながらメスの姿になる割合は8割近くになりましたが、彼らが用いた系統では5%以下でした。
8割もメスが多ければ、異変に気づきますが、5%ではわかりません。オスとメスの比に特に変化がなければ、わざわざ性染色体を調べたりはしないでしょうからね」
新発見とは、案外偶然から生まれているものなのだ。もちろん、偶然のシグナルをキャッチするためには、日々の努力と観察眼が必要だろう。さらに、論理的に考えることが大切だ。実験を正しく積み重ねた結果が、これまで考えられてきたことと矛盾する。そんなときこそが、思い込みや常識の殻を破るチャンスなのだ。
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