「ワクチン開発立役者」カリコ氏の壮絶な研究人生

ハンガリー出身、「mRNA」ワクチンを40年研究

カタリン・カリコ氏(写真:© 2021 Bloomberg Finance LP)
ファイザー製やモデルナ製の新型コロナウイルスのワクチンには、遺伝物質の「メッセンジャーRNA(mRNA)」の技術が使われています。今回のワクチンに欠かせない技術を開発したとして、アメリカの権威ある医学賞「ラスカー賞」にドイツのビオンテックで上級副社長を務めるカタリン・カリコ氏らが選ばれています。
40年にわたりmRNAの研究をしてきたカリコ氏はハンガリー出身のアメリカ移民。研究成果はなかなか認めれられず、その研究人生は苦難の連続でした。ジャーナリストの増田ユリヤ氏が上梓した『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』より一部抜粋・再構成してお届けします。

研究費の打ち切り、新天地アメリカへ

1985年1月17日。30歳の誕生日に当時在籍していたハンガリー有数の研究機関であるセゲド生物学研究所を辞めなければならないと知らされたカリコ氏。RNAに関して、思わしい研究成果があげられなかったから研究費が打ち切られた、というのも理由のひとつだったが、どれだけ優秀であっても、若い人材を正規雇用することはできなかったのだ。

社会主義の国では珍しいことだが、ハンガリーの景気が低迷し、研究資金を出せなくなっていたことがその背景にあった。それほど当時の経済状況が不安定だったのだ。

それでも、カリコ氏は研究を続けることを諦めたくなかった。

「ハンガリーで仕事を探したけれど、申請したところはどこも返事をくれなかったの」
「ヨーロッパの名門大学でも探したわ。理学部も医学部もあって、私たちが研究をしていたRNAも扱っていた大学を調べて連絡をしたのよ。でも無理だった」

まだEUなども存在せず、ハンガリーを援助したり、行き場を失った学者に国境を超えて職を提供したりするような仕組みはなかった。結局、オファーが来たのは、アメリカ東部フィラデルフィアにあるテンプル大学からだった。

「テンプル大学に手紙を書いたのです。自分が何者で、どんなことができるのか、ということを書きました。その手紙を同じ分野で活躍する先生が読んでくれて、研究所に私を呼んでくれたのです」

テンプル大学の生化学科が、ポスドク(博士課程修了後の任期付き研究職)として正式に職と研究の場を与えてくれるという、嬉しい知らせだった。とはいえ、当時のカリコ氏にとって、アメリカはまだ見ぬ未知の国。しかも、エンジニアの夫と2歳の娘という家族がいたし、設備の整った新しいマンションに引っ越したばかりというタイミングだった。

それでも、カリコ氏はアメリカに渡ることを即決した。

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