性別は「いつどのように」決まるか知っていますか 生まれた後「環境に合わせ性」を変える魚の一生

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しかも力任せに押し込めるわけにはいかない。DNAにはたくさんの遺伝情報が書かれている。必要な遺伝情報を必要なときに読み取らなくてはならない。

絡まってほどけなかったり、切れたりしては困るので、DNAを「ヒストン」というビーズのようなタンパク質に巻きつけて、コンパクトに折りたたんでおく。これが染色体だ。1セットでは収まりきらないので、生物はDNAの収納セットである染色体を複数持っている。

大きな図書館でイメージすると…

大きな図書館をイメージしてほしい。これが核だ。そこには本棚がいくつかある。これが染色体だ。本棚には本がぎっしり収まっている。個々の本が遺伝子で、そこに書かれている文字がDNAだ。

ヒトの場合、染色体は46本なので、46個の本棚に遺伝子本がぎっしり収められている様子を思い浮かべてほしい。ほとんどの本棚には1000冊ほどの遺伝子本が収められている。

本棚のうち、2個が性決定に関わる「性染色体」だ。性染色体にはX染色体とY染色体の2種類があり、ヒトを含むほとんどの哺乳類は、性染色体の組み合わせがXYだとオスになり、XXだとメスになる。

このことから、Y染色体という本棚には、オス化を促すための遺伝子本が収納されていると考えられてきた。1990年になり、オス化を促す遺伝子本の強力な候補として「SRY(エスアールワイ)」と命名された遺伝子が発見された。

SRY遺伝子はヒトを含むさまざまな哺乳類のオスだけに存在していた(ただし、マウスのSRY遺伝子はSry遺伝子と表記される)。翌年の1991年には、本来メスになるはずのXXマウスにSry遺伝子を導入すると、そのマウスがオスになることが報告された。この研究により、Sry遺伝子がオス化遺伝子の実体であることが証明された。

SRY遺伝子の発見で、性決定の仕組みの謎はすべて解決したかのように思えた。だが、そうではなかった。大阪大学大学院生命機能研究科の立花誠教授の研究グループは2013年に、マウスのSry遺伝子の働きを調節する酵素「Jmjd1A(ジェーエムジェーディーワンエー)」を発見し、科学分野のトップジャーナルの1つである英科学誌『サイエンス』に発表したのである。

SRY遺伝子が存在するだけではオスにはなれないという発見は、研究者たちに衝撃を与えた。哺乳類の性も受精した瞬間ではなく、受精後に決定されるのである。立花氏のこの研究成果は日本の新聞やテレビなどでも大きく取り上げられ、「オスをつくるために必要な酵素の発見」と報じられた。

立花氏が、Jmjd1Aを発見したのは、まったくの偶然だった。

以前よりJmjd1Aは、マウスの精子がつくられるときに多くつくられる酵素として知られていた。立花氏がJmjd1Aに注目したのは、Jmjd1Aが精子形成にどのように関与するかを調べるためだった。

「Jmjd1Aの働きを調べるために、Jmjd1Aをつくる遺伝子を壊した『ノックアウトマウス』の作製に挑戦しました。

しかし、作製完了まであと一歩というところで、海外の研究グループに先を越されてしまいました。ノックアウトマウスを作製してJmjd1Aと精子形成の関係を調べた研究成果が発表されてしまったのです。私たちのアプローチとまったく同じ方法でした。論文を見つけたときは途方に暮れましたね、これから先は何をやったらいいのかと」

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