弁護士仕分け人が語る 事業仕分けの方法論 官の行動原理を理解する4つの視点 水上貴央著 ~共通する非効率の構図をあぶり出す
事業を始めた時点では時代の要請に応じた望ましいものも、時の変化と共に、緊急性や必要性が薄れてくる。しかし、受益者は事業の縮減や廃止に反対し、官の側も継続することが民間に対する権力の源泉となるため、事業を続けようとする。
既得権益化を避けるには事業の不断の見直しが必要だが、日本では半世紀以上も政権交代がなかったため、政官業の鉄の三角形によって歳出が固定化していた。それを打破する試みの一つが、事業仕分けであった。
本書は、民間仕分け人として参加した著者が、官の行動原理に着目し、事業の非効率を四つの視点で類型化したものである。一見、事業ごとに問題が異なるが、共通する非効率の構図を見事にあぶり出す。評者も仕分けに参加したが、本書の分析に基本的に同意する。
官は自らの利益最大化行動として、国の費用を最大化するような行動を取る。入札を行っても、天下り先など特定の事業者しか受託できない条件を加え、実質的な随意契約と変わらない。女性の社会進出を促すといった大義名分を掲げている事業ほど、費用対効果が検討されておらず、効率化の余地が大きい。興味深いのが、宿泊施設など箱モノを抱える事業である。箱モノの稼働率を上げるため、事業を増やし、財政資金が費消される。国の持つストックは、民間に極力売却したほうがよいことが改めて認識される。
仕分けも2年目に入り、民主党自らが作った予算の仕分けを行うことは、自己否定で適切でないという意見もある。ただ、限られた財政資金を時代の要請に合わせた新たな歳出に振り向けるには、絶えず事業の必要性をレビューし、優先順位を検討しなければならない。仕分けの定着で、ミクロの財政規律が生まれてくるはずである。
みずかみ・たかひさ
弁護士。札幌市生まれ。一橋大学商学部卒業。旧三和総合研究所に勤務。早大法務博士。国の事業仕分け第1弾後半より第3弾まで民間評価者を務める。2010年からは地方自治体事業仕分けの仕分け人も務めている。
日本評論社 1995円 256ページ
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