住友金属鉱山、「ニッケル大型案件」消失の舞台裏 事業化の撤退表明直後に中国企業が名乗り

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いずれにしろ、住友鉱山がインドネシアで逃がした魚は大きい。ポマラには鉱脈が集中しており、「具体的な鉱量は申し上げられないが、あれだけの大規模な鉱山はそうはない」(松本本部長)。

懸念されるのが、電池材料の増産計画に与える影響だ。現在、住友鉱山は2030年までに電池材料の生産能力を約3倍に拡大する計画を掲げており、ポマラのニッケル原料はその計画の前提だった。

ポマラからの撤退でニッケル生産の拡大計画を含めた2つのビジョンに黄色信号が灯ることになる。住友鉱山は今後、別のニッケル鉱源を探索する方針。ポマラと並行して複数のプロジェクトを検討してきたといい、2020年代のうちに実現する方針は変えていない。

さまざまな競合がいる中で「トップ」を目指せるか

電池材料の増産に向けて、住友鉱山が得意とする製錬方法にはこだわらず、電池材料にとって最適なプロセスになるよう柔軟に対応する。また、中国勢では手の出せない難処理鉱の取り扱いも検討する。製錬では鉱石に含まれる不純物をいかに取り除いていくかが重要になる。今後はHPALを含めさまざまなプロセスで蓄積した不純物除去技術を生かしていく戦略だ。

とはいえ、EVシフトという世界的な潮流の中で、中国勢をはじめ、各国企業がニッケル権益を狙っている。そこで住友鉱山が勝ち残っていくのは容易ではない。

住友鉱山のあるOBは、ポマラ撤退の遠因として、同社の企業風土を挙げる。「かつて多角化で失敗した経緯もあり、石橋をたたいても渡らない超保守的な社風。特に近年はプロジェクトが大型化して、その傾向が強くなっているのではないか」。

今回の撤退から得た教訓について「正直、これというものはない」と松本本部長は答えたが、「許認可すら取れていない段階で、投資の意思決定はできない。ただ当社ができるかどうかは別にして、今の時代はゼロか百かではなく、最低限この許認可が取れれば事業化の判断をするという考え方はある」とも述べた。

確かに住友鉱山にミステークはなかったのかもしれない。しかし、だからこそ今回のダメージは大きい。長年のパートナーとの関係や技術的な優位性があっても、巨大案件を横取りされる。そんな世界で、住友鉱山はニッケルにおける「非鉄リーダー」を目指さなければならない。

並木 厚憲 東洋経済 記者

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なみき あつのり / Atsunori Namiki

これまでに小売り・サービス、自動車、銀行などの業界を担当。テーマとして地方問題やインフラ老朽化問題に関心がある。『週刊東洋経済』編集部を経て、2016年10月よりニュース編集部編集長。

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