住友金属鉱山、「ニッケル大型案件」消失の舞台裏 事業化の撤退表明直後に中国企業が名乗り
そこに割って入ったのが、華友コバルト業だった。同社は最終契約後、3年以内に商業生産を始めるという。つまり、PTVIが期限とする2025年12月にギリギリ間に合う。しかも、華友コバルト業が建設するプラントの生産能力は、最大で年間12万トンと住友鉱山の計画の3倍の規模になる。
当局の許認可がどうなっているのかは不明。わかっているのは、華友コバルト業が住友鉱山の想定できないスケジュールで大規模なプラントを建設するという事実だけだ。
インドネシアで存在感増す中国企業
2010年代半ば以降、インドネシアでは中国企業が次々とニッケル製錬所を立ち上げている。
インドネシアはニッケルの埋蔵量が世界の24%とトップを占める。政府は東南アジアにおける「EVハブ」になるべく、製錬所の建設を急ピッチで進めている。その担い手として浮上しているのが、中国企業というわけだ。2020年から2033年までに中国からインドネシアで実施される投資額は350億ドルに上るとする報道もある。
中国勢が手掛ける製品は、当初中国国内のステンレス向けが中心だったが、現在ではEV用バッテリー向け正極材など高品質のニッケルに変わってきている。ニッケルの動向に詳しい石油天然ガス・金属鉱物資源機構の五十畑樹里氏は、「中国企業はインドネシアで次々と大型のプラントを立ち上げており、技術的にも力を付けている」と指摘する。
実際、華友コバルト業は今回のポマラプロジェクトにHPAL(高圧硫酸浸出)という技術を活用する。HPALは、ニッケル鉱石を高温高圧状態の硫酸と反応させてニッケル原料を取り出す技術。ニッケルの含有量が少ない低品位の鉱石からでも、高品位のニッケル原料を安定的に作り出すことができる。
実はHPALは、住友鉱山が2005年に世界で初めて実用化した技術だ。同社は現在もフィリピンの2つの製錬所でHPALによるニッケル原料の生産を続けており、HPALプラントの運営ノウハウは他社の追随を許さない。
他方、華友コバルト業はインドネシアで2020年にかけて2つ程度のHPALプロジェクトに参加しているものの、実績はほとんどない。こうした技術的な差があるにもかかわらず、今回住友鉱山は敗れてしまったのだ。
住友鉱山はPTVIとMOU(基本合意書)は結んでいたものの、最終投資の決定までには至っていなかった。「PTVIが別の企業と交渉しているとは感じていたが、どんな交渉を進めているかまではわからなかった」(松本本部長)という。
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