トヨタのイマイチだった車が抜群に変わった事情 好決算叩き出す「もっといいクルマづくり」の系譜

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最近の驚きはヤリスとカローラだろう。先代モデルはどちらも「真っすぐ走らないのに曲がりたがらない」という駄作で、出張先のレンタカーでは絶対選びたくないクルマの代表格だったが、現行モデルは月とスッポンくらいレベルアップで欧州のベンチマークモデルとガチンコで比べても決して負けていない仕上がりだ。また、ミニバンのノア/ヴォクシーは、先代は運転するのは嫌になるくらいだったが、新型は走る/曲がる/止まる性能の大幅向上だけでなく、ずっと乗っていたくなる心地よさまで手に入れた。

さらに印象的なモデルはクロスオーバーSUVのRAV4とハリアーだ。この2台は同じメカニズムを用いて開発されているが、乗り比べるとおのおのが目指すキャラクターに見合う走りなのだ。その理由をあるエンジニアに聞くと「成瀬さんと社長がずっとこだわってきた『味づくり』が『TNGA』という武器を手に入れたことで花開いた結果」と教えてくれた。

100点満点なクルマはもちろん存在しないが

ニューモデルのメディア向け試乗会ではわれわれジャーナリストは試乗後にエンジニアたちと意見交換を行うが、そこでも大きな変化を感じている。以前のトヨタは筆者が自分で感じたことをぶつけても、それに対して「そんなことはない」「こう作ったからこうなるはずだ」と、話は平行線で議論に入ることすらできなかったが、今は「どこがどうだったのか?」「ダメな所はないのか?」と改善のヒントを見つけようという想いを強く感じるのだ。

もちろん100点満点なクルマは存在しないのでわれわれも指摘する。ただ、数値に表れにくいフィーリングなどについては、従来は「好みの差では?」「数値上は問題が出ていない」と門前払いだったが、今は「そこはわれわれも気になっているので、必ず対応します」という感じだ。最初は「単なる社交辞令?」と思ったものの、翌年一部改良されたモデルに乗って「あれっ、よくなっている!!」と。

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このように現状で決して満足しない前向きな姿勢や対応までのスピード感は、モータースポーツでのアジャイル開発が量産モデルにも浸透しはじめている証拠だ。ただ、誤解してほしくないのは、モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりはモータースポーツに適したクルマをつくることが目的ではないということだ。その目的は、モータースポーツの「時間軸の速さ」「結果がすぐに出る」「その場で解決」など、仕事に対する意識改革のためだと筆者は考えている。

決算書は数字に目がいきがちだが、その数字に至ったバックボーンを理解すると、その企業の本当の実力が見えてくる。2022年3月期のトヨタの決算は、このように10年以上にわたり、粛々と「もっといいクルマづくり」を進めてきた集大成と言っていい。

山本 シンヤ 自動車研究家

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やまもと しんや / Shinya Yamamoto

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを“わかりやすく上手”に伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗って活動をしている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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