トヨタのイマイチだった車が抜群に変わった事情 好決算叩き出す「もっといいクルマづくり」の系譜

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ニュルの活動で培ったノウハウ・経験は量産モデルにも生かされた。2010年に豊田社長はトヨタの味つくりの一環として新スポーツカーブランド「G’s」を立ち上げた。ベース車両となるノーマルのボディー/サスペンションに手が加えられ、スポーティーな内外装と合わせたトータルチューニングが行われていた。筆者は当時G’sに乗り、「走りに関してはこれがノーマルであってほしい」と記した。そんなG’sは「こんなモデルを待っていた」「満足度が高い」というユーザーの声が多方面から聞かれ、高く支持された。

するとノーマルモデルも変わり始めた。これまでお化粧直しがメインだったマイナーチェンジでもボディーのスポット増しやサスペンションの改良など大規模な改善が行われるようになった。目に見えない部分の進化はユーザーにもシッカリと伝わり、「トヨタも変わってきたよね」という意見も少しずつ聞かれるようになった。その流れは年々規模を拡大、周りの理解や支持も増えていった。つまり、在籍するエンジニアの能力を存分に発揮できる環境が徐々に浸透してきたのである。

カンパニー制とTNGAという改革

ただ、既存のクルマをベースに改修を行うやり方では限界があった。豊田社長は「もっといいクルマづくり」のためにすべてを刷新する必要があると考えた。その改革こそが「カンパニー制」と「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)」である。

「カンパニー制」は巨大なトヨタをいくつかの独立させた企業に分け、企画立案から開発、生産まですべてをカバー。つまり、機能軸ではなく商品軸の組織への改編だ。各カンパニー間は完全に独立しほかのカンパニーの干渉を受けないため、よりスピーディーな意思決定と的確な商品戦略が可能になっている。

「TNGA」はトヨタのクルマづくりの構造改革を意味する。プラットフォームやパワートレインを中長期的に使えるように最初に高いレベルを実現させそれを皆で共用する「技術のモジュール化」、各モデル/各ユニット/各生産工場でバラバラだった「技術的な共有」など、クルマ作り/仕事の進め方の大きな改革だ。

そのポイントを大きく分けると「商品力の向上」「グルーピング開発による効率化(複数車種の同時開発と部品・ユニット共用化)」「もの作り改革(シンプルでコンパクトな製造工程)」「グローバル標準への取り組み」「TNGAと連動した調達戦略」と5つのポイントを踏まえた車両開発が進められている。その結果、基本性能の高いモデルを効率的に作ることが可能になったそうだ。

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