「業績上げたら年収1000万」の飲食店が敗北した訳 共感できる目標を掲げた星野リゾートとの違い
成果があがっているうちはいいのですが、あがらなくなると、先の例と同じように、あっさりと退職していきます。カネの切れ目が縁の切れ目というわけです。離職の問題だけでなく、社内の協力関係もいびつなものになります。
本当は上司と一緒に訪問したほうが契約確率も単価も上がるのに、自分1人で訪問して受注すれば、分配される付加価値は多くなるという場合、多くの人が協力し合うより自分1人で訪問するほうを選んでいました。組織が共通の目標を目指すチームになっていないことが、協力関係を生まない要因になっていました。
そして、利己的な目標だけでつながった組織は、ひどくもろいものです。ですが、世の中の多くの組織が、利己的な目標しかない人たちの集まりになっています。
やがて自分の都合を優先する職場に…
私のクライアントには飲食店が多いのですが、アルバイトの面接の段階では「人と接する仕事が好き」なんていっていたスタッフも、目標の設定がうまくいっていない組織にいると、だんだんと利己目標だけになっていきます。自分の労働時間をお店に与えることで時給をもらう、ただそれだけの利己目標しかなくなっていくのです。
そうして、お店の売上を上げたいとか、お客様にもっと喜ばれたいとか、そういった利他目標がどんどん薄れていき、やがて、できるだけラクでカンタンな仕事を好むようになります。そうなってしまっては、シフトの調整さえ、みんなが利己的に自分の都合を優先するので、なかなか決まらなくなります。
利己的なお店では、お店を運営するだけの最低限の協力体制すら奪ってしまうのです。
目標を掲げ方の失敗によってチームが弱体化している組織が少なくないなか、目標の提示の仕方がうまく、チームを活性化させている企業があります。星野リゾートという企業です。星野リゾートの目標の掲げ方は見事です。利己目標にならない、共感できる目標を描くのが非常にうまいのです。
コロナ前の星野リゾートは「日本の観光業をヤバくする」というビジョンを掲げ、そのために、スタッフは「リゾートの達人」になろうと呼びかけました。
日本の観光は、素晴らしいポテンシャルがありながら、まだまだ活かしきれていない国だといわれています。歴史があり、自然があり、独特の文化があり、世界に誇る食があって、インフラも整い、治安も信じられないほどよいという観光には持ってこいの日本は、まだまだ伸ばす余地がある。だから私たちはリゾートの達人となって、観光業をヤバくするのだと。
ホテル業というのは、重労働です。客室係が行うベッドメイキング、フロントスタッフが行うチェックイン・チェックアウト業務、調理スタッフや接客スタッフなど、毎日同じことを繰り返すルーティン業務です。このルーティン業務をただの作業にするのか、それとも目標に向かう大事なアクションだと捉えるのかでは、働き甲斐に雲泥の差を生みます。
それだけではありません。