天国でも地獄でもない「煉獄」はどんな場所なのか カトリックが発明、プロテスタントは存在認めず

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煉獄で死者は火の試練を受けますが、煉獄の火は地獄の劫火とは異なり、苦しいながらも浄化される喜びがあります。死者たちは煉獄で過ごすうちにすっかり身ぎれいになり、終末において晴れて最後の審判に臨むことになります。おそらくは天国に行くことになるのでしょう。

ダンテの『神曲』は「天国篇」「煉獄篇」「地獄篇」の3部から成っています。ダンテの描くところでは、煉獄は、なんと、南半球にある島です!

煉獄説を唱えたのは西方のカトリック教会です。東方正教会はこの説を採用しませんでした。さらに、16世紀にカトリック教会から分離したプロテスタントも、この説を退けました。聖書に典拠がないし、煉獄を楽にするためと称してカトリック教会は免罪符を売って儲けていたからです。

というわけで、今日、いちおう正式には、プロテスタントは終末の審判および天国あるいは地獄の運命を待つ――そこまでのいきさつについては詮索しない――ということになっており、カトリックでは天国、煉獄、地獄の三分法で考えることになっています。

「死後は無になる」という主張もごく普通に

以上、キリスト教の来世観は案外と複雑で、しかも未整理です。「クリスチャンは死んだら天国へ」なんて単純なものじゃないんですね。

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近代になると教会の権威が衰えるにつれ、死後の世界についても欧米人はさまざまな「異教」的な考えをもつようになりました。例えば19世紀~20世紀初頭に流行した心霊主義では、死者の霊がどこかの霊界にいて生者と交信できると考えられています。心霊写真とか降霊術とか、けっこうまじめに論じられていた時代です。

現代では仏教やヒンドゥー教の影響を受け(いわゆるニューエイジ)、輪廻転生を唱える欧米人も増えています。1980年代には女優のシャーリー・マクレーンが輪廻や神秘体験を語った本がベストセラーになっています。

また、近年、無宗教化、無神論化が進むにつれて、死後は無になる、あるいは自然に帰るといった主張もごく普通のものになりました。「私の墓はからっぽなので泣かないでください。私は風になっています」といった内容の詩が世界中で引用されていますが、これは日本では『千の風になって』という歌謡曲としてヒットしました。

死生観については、基層にある宗教の違いを超えて、欧米も日本も似たりよったりになりつつあるようです。

中村 圭志 宗教学者

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なかむら・けいし / Keishi Nakamura

1958年北海道小樽市生まれ。北海道大学文学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学(宗教学・宗教史学)。著書に『教養としての宗教入門』『聖書、コーラン、仏典』『宗教図像学入門』(ともに中公新書)、『教養として学んでおきたい5大宗教』、『教養として学んでおきたいギリシャ神話』(ともにマイナビ新書)、『24 の「神話」からよむ宗教』(日経ビジネス人文庫)、『人は「死後の世界」をどう考えてきたか』(角川書店)、『聖書、コーラン、仏典』『西洋人の「無神論」 日本人の「無宗教」』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。

 

 

 

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