切り札は、天然痘ワクチン(痘そうワクチン)だ。
アメリカ疾病対策センター(CDC)によると、サル痘予防にも少なくとも85%有効であることが、アフリカの過去のデータから示唆されている。
天然痘ワクチンは、サル痘ウイルスとの接触があった後からでも、できるだけ早く打てばそれなりの効果が期待できそうだ。
発症予防のためには接触から4日以内に接種することを、CDCは推奨している。4~14日以内の接種だと、発症は防げないかもしれないが、症状を軽減できる可能性がある。
「45歳以下の濃厚接触者」に優先接種を
日本国内で発生した場合、国民一斉までは不要だが、濃厚接触者には天然痘ワクチンを速やかに接種する必要がある。人類はそうやって地道に天然痘を撲滅したのだ。
天然痘ワクチンは1983年から国内製造がストップしていたが、バイオテロへの懸念から2001年に国内備蓄が策定され、製造が再開された。現在、KMバイオロジクス社が製造・備蓄している(乾燥細胞培養痘そうワクチン)。
ただし、現在46歳以上の人は、そもそもサル痘にかかりにくい可能性が高い。1976年まで、日本でも「種痘」が行われていたからだ(ちなみに米軍では今も一部の兵士に種痘を実施している)。
2004年の国内調査では、種痘中止後の世代(現在45歳以下)には天然痘やその仲間に対する抗体がまったくなかった。他方、種痘世代では調査時点で8割の人に抗体があった。特に、世代別の平均抗体価で見た場合、現在73歳以上の人たちは強い免疫を保持していた。
一方、子どもは海外ではサル痘死亡例もあり、いずれにしても若い世代のほうがリスクは高いと見られる。
現実問題として、アメリカや日本の大都市で感染者が発生したら、濃厚接触者の割り出しは非常に難しい。天然痘方式でどこまで感染を抑え込めるかはわからない。
だからこそ、いざというときに混乱を極力回避できるよう、天然痘ワクチンの使用に向けてあらかじめ準備はしておいたほうがいい。流通・配備のシミュレーションに加え、
①濃厚接触から「4日以内、14日以内」というタイムラインを念頭に
②高齢者よりも「45歳以下」を優先する
といった接種指針も策定しておくべきだろう。
もちろん、抗ウイルス薬テコビリマットの国内導入は、早急に検討するべき課題だ。
20世紀以降、医学が進歩し衛生状態が向上するにつれ、日本人の健康上の関心は感染症から生活習慣病にシフトしてきた。だが新型コロナの登場で、人類は病原体を決して甘く見てはいけないと、誰もが痛感したと思う。
サル痘が、人々をパニックに陥れるほどの脅威になるかどうかはわからない。だが、慎重を期して臨むべきであるのは間違いない。長い目で見て必要な感染症対策についても、改めて洗い出す時が来ている。
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