日本国内でも、データ収集の始まった2003年からこれまで、輸入例を含め日本でサル痘患者の報告はない(国立感染症研究所)。
データ収集のきっかけは同年、アメリカ経由で輸入されたガーナ産のアフリカヤマネ17匹に、サル痘感染の疑いが生じたことだ。このときは全頭が死亡もしくはウイルス陰性で、国内発生には至らなかった。
だが、今回はこれまでと少し様子が違う。
WHOは5月26日、アフリカ以外に、欧州、北米、オーストラリア、イスラエル等、20カ国以上で感染例と疑い例、合わせて300件が報告されていることを明らかにした。
発端は5月7日、英国の健康安全局(UKHSA)がサル痘患者の発生を報告したことだ。患者は最近、流行地域であるナイジェリアに渡航歴があった。その後、患者と接触のないサル痘患者が続出し、英国内でこれまでに70例が確認された。
以来、世界各地から報告が相次ぐ異常事態となっている。
なぜ急に世界各地で流行?
さて、サル痘はこれまでアフリカ以外での発生はほとんどなかったのに、一体何が起きているのだろうか?
「新型コロナのように、変異によってサル痘ウイルスの感染力が高まったのでは」と思うかもしれないが、これは考えにくい。
サル痘はかなり巨大な「DNAウイルス」だ。新型コロナなどの「RNAウイルス」と複製の仕組みが違うだけでなく、自らの遺伝情報をより多く持ち、複製時の異常を発見して修復する能力に長けているものが多い。
サル痘ウイルスは、新型コロナウイルスと比べて変異しにくいはずなのだ。
だから今、世界で同時多発的に患者が発生しているのも、実際にはここ最近にアフリカから流れ込んだわけではないのだろう。これまで静かに広がっていたが、注目されずにきただけ、という可能性がある。
なお『Nature』誌は、患者集団のほとんどに20~50歳の男性が含まれ、その多くは男性と性交渉を持つ人たちであることも言及している。サル痘ウイルスが偶然に彼らのコミュニティに持ち込まれ、そこで循環し続けた、という仮説だ。
ともすると偏見につながりかねない、リスキーな説でもある。だが、例えばHIV感染は、わが国でも男性間の性的接触によるケースが70%を占め、該当するコミュニティへの対策が最も重要とされている(国立感染症研究所)。
今回のサル痘にも一部、同様の背景があるなら、むしろその実態を早急に把握してコミュニティ内での感染抑制策を講じ、偏見や健康被害を最小限に抑えることも必要だ。
数週間のうちに疫学調査が完了すれば、発生原因や感染のリスク因子について今より確かな情報が得られる。
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