日本人の「数学オンチ」大人になって感じる深刻さ 佐藤優氏×宮本さおり氏が語る「数学の本質」

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宮本:公理系というと、仮説の前提になるものとか、そういうことですか?

佐藤:そうです。この公理系が理解できていないと、物事を論理立てて考えることも難しくなります。平面幾何などはその一例ですが、公理系のことを面白がって教える先生が減っているのではないかなと思うのです。先生によっては教科書を問題集的にしか使わない人もいます。教えられたパターンを問題集で解くことを繰り返すだけの学びでは、パターンから外れた問題は解けない。解けないから面白くなくなる。面白くないから数学が嫌いになる。そういう悪循環になってしまっているように思います。

宮本:教わり方によって、子どもたちの好奇心をかき立てられるかはかなり変わると思います。恐らく、解き方を暗記すればテストは乗り切れると思います。しかし、後々どう解いていたかを思い出せるかと言えば、思い出せない。

佐藤:そして、文化系の学生だけでなく、先ほども話したように、理科系の学生の中にも実は数学が苦手だという人がいるんです。

よく見受けられるのは生物系の学生です。いちばんの問題は、数学が嫌いになっていることだと思います。そうしたとき、意外に重要になるのが算数から数学に切り替わる中学校の先生です。自分自身が面白がりながら教えてくれるような先生に出会えると、数学に対する苦手意識はなくなると思います。

宮本:つまり、楽しんでやる。好きこそものの上手なれですね。

佐藤:実はこれは英語も一緒で、中学の英語の先生というのは英語に堪能である必要はないんです。入り口の英語を丁寧に教えることができる情熱とそのスキルがあればいい。数学も同じようなところがあると思います。例えば、中学の数学の先生が東工大の入試で出るような難解な問題を解けなくてもそれは深刻な問題ではないと思うのです。

生きていくために勉強が役立つと感じられるか

宮本:学ぶこと自体を好きになるには、今学んでいることが、生きていくために役立つと感じられるかも1つのポイントになるように思います。今の小学生の算数の教科書を見ると、社会と算数のつながりが意識的に入れられていると感じます。とても工夫されています。

佐藤:自分のやっている勉強が役に立つとわかると、学ぶことはそれほど苦ではなくなり、力も定着します。生活のあらゆるところに数学的要素が潜んでいることを知れば、数学が面白くなるのです。桜美林大学の芳沢光雄教授は、消費者金融でお金を借りたらどうなるかなど、暮らしと数学を結びつけてわかりやすく教えてくれる本をたくさん出されています。生活に密接に結びついた具体的なところで数学を打ち出しているから、理解がしやすいのです。

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