日本を診る 片山善博著 ~政治のさまざまな病を冷徹に診断する

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日本を診る 片山善博著 ~政治のさまざまな病を冷徹に診断する

評者 野中尚人 学習院大学法学部教授

 類書は山ほどあるが、地方自治と国全体の問題を本書ほど巧みに分析し、しかも本質をえぐり出したものは少ない。

著者は、東大法学部を卒業して旧自治省(現総務省)に入り、鳥取県知事を経て慶応大学教授、さらには菅内閣で総務大臣の重職にある。本書には、こうした著者の経験・識見が随所に示されている。

中でも、地方自治・分権改革をめぐる見立て・分析は実に鋭い。特に、全国知事会などの地方団体に対する厳しい批判的な見解は特筆ものだ。著者によれば、知事会などは総務省の言いなりに近く、真の住民自治の実現には前向きとは言えない。したがってむしろ、市町村と都道府県との適切な役割分担、クライアントである住民自身の視点に立った改革こそが重要と力説することになる。

もう一つ、道路特定財源の問題に象徴される「道路と政治・地方政治」という問題の深刻さが見事に指摘されている。特定財源による聖域化、起債制度での優遇、さらには交付税制度での「裏」償還とも言うべき仕組みまで。

むろん著者は、道路を一切造るな、などとは言わない。しかし、自治体の思考能力を麻痺させるほどの制度的な歪みの中で借金は膨らみ、社会保障や教育とのバランスを失する傾向に陥ったことに警鐘を鳴らしているのである。

そのほかにも、事務次官会議や予算のシーリング制度、官僚制自身の病理やそれと結託したかのような自民党政治の体たらくなど、日本政治のさまざまな病を冷徹に「診」ている。

文章もよく練られており読みやすい。総務省と知事会をめぐる「系列店」の比喩(44ページ)など、軽妙な工夫もちりばめられている。ぜひ多くの読者に読んでもらいたいものである。

かたやま・よしひろ
総務大臣。1951年生まれ。東京大学法学部を卒業し、旧自治省に入省。自治大臣秘書官、大臣官房国際交流企画官、固定資産税課長などを歴任。99年4月鳥取県知事(2期)。慶応義塾大学法学部教授、鳥取大学客員教授、行政刷新会議議員などを経て、2010年9月より現職。

岩波書店 1890円 226ページ

  

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