新興国との成長格差が新たな危機の火種に--ラグラム・ラジャン・シカゴ大学教授《デフレ完全解明・インタビュー第9回(全12回)》
──汚職の問題も指摘されます。
確かに、汚職は大きな問題だ。もっとも、盗奪政治のようなレベルではない。真の問題は、汚職を通じてカネが手に入ることで、人々が改革をやめてしまうことだ。
場合によっては、汚職は外国の直接投資を破談にする。しかし、逆のトレンドもある。たとえば、インド国内での州同士の競争が強まったことで、汚職がかなり少なく、行政がしっかりした州もある。こうした州は、投資家の歓迎姿勢が強い。政府の助けが必要なければ汚職は抑制される。一方、かなり大規模な土地の買収が必要な場合などは、行政府の許可が必要で、汚職が横行しやすい。いずれにせよ、汚職は自己増殖する。監視は怠れない。
--グローバルな不均衡によってアジアの大量の貯蓄が欧米に流れ込んだことが、金融危機の主因とする見方もあります。
本当の問題は不均衡それ自体ではなく、需要を刺激する方法にある。需要拡大を2~3カ国に依存するのは持続的とはいえない。1990年代においては、中南米諸国の過剰消費やアジア諸国の過剰投資といった、新興国の行きすぎた支出が問題だった。新興国が支出を止めると、今度は先進工業国が過剰支出する番となった。大幅な財政赤字国を見れば、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、米国、アイスランド、アイルランドなど問題国ばかりだ。
そして今、われわれはブラジルやインドなどの新興国に対して、経常赤字を増やし、世界を助けてほしいと言っている。“次なる列車事故”の発生を危惧すべきだろう。少数の国々に需要拡大を過剰に依存しないことは、世界のためになる。人口動態的な裏付けがないかぎり、永続的な経常黒字国や経常赤字国にはなってはならない。それは結果的に問題を生み出すことになる。
──こうした問題に適切に対処できる国際機関はありますか。
国内政策の変更を強制できる国際機関はない。どの国も、大変な苦境に陥らないかぎりは、外部から政策面で指図を受けたくない。アイルランドとギリシャは外部の政策介入に同意したが、米国や中国がそれを許すとは想像しがたい。
中国や米国の不均衡是正を助けることは、グローバル経済にとって望ましい。しかし、短期での急速な変化は政治的な痛みを伴う。それゆえ、動きは非常に緩やかとなる。
--米国の財政・経常赤字削減が必要なときに、アジア新興国は「ディカップリング(非連動)」の成長を続けることができるでしょうか。
米国政府の財政出動は、米国の家計部門の貯蓄率が上昇する中で、ある程度その支出を補った。そして今や、米国の消費者は復活し始めている。望ましいのは、米国の財政赤字がGDP比で10%から2~3%へ減少するときに、家計部門の過度の成長によって埋め合わせしないことだ。もしそれができれば、米国の経常赤字はより持続的なGDP比2~3%まで縮小し、危機前の6・5%へ戻ることはないだろう。
そのためには、他の世界各国は、より内需に成長の源を見いだす必要がある。米国にだけ輸出するのではなく、もっとお互いに購入し合い、内需を拡大させる。これが新たなトレンドとして確立されるまでには時間がかかるだろう。うまくいけば、赤字と黒字を緩やかながらスムーズに減らせる。そうなれば、世界経済はより安定感を増すに違いない。
Raghuram G. Rajan
今回のグローバル金融危機を事前に警告した数少ないエコノミストの1人。2003年から国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミスト。07年より現職。専攻は金融、経済開発分野。現在、インド首相の経済顧問。インド政府の金融セクター改革委員会議長を務め、08年9月に報告書を提出した。主著に『セイヴィング キャピタリズム』(共著)、『フォールト・ラインズ』。03年に米国ファイナンス協会から、40歳以下の最優秀金融エコノミストに贈られる「フィッシャー・ブラック賞」を受賞。今世界で最も注目される経済学者の1人。
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