新興国との成長格差が新たな危機の火種に--ラグラム・ラジャン・シカゴ大学教授《デフレ完全解明・インタビュー第9回(全12回)》
グローバル金融危機の到来を予言していた、いま最も注目の経済学者が見通す、これからの世界経済の行方とは--。
ラグラム・ラジャン氏は国際通貨基金のチーフエコノミストだった2005年の時点で、08年の金融危機の発生を予言し、その原因まで詳細に分析していた。今、世界で最も注目される経済学者の一人である。昨年の新著『フォールト・ラインズ(断層)』でも、今回の危機について深く分析しつつ、過剰消費をやめられない米国と、過剰貯蓄を続ける日本や新興国のインバランス(不均衡)を是正しないかぎり、断層の破断は再び起こると警告している。同氏に、日本を含めた世界経済の長期的な行方について聞いた。(聞き手:本誌特約リチャード・カッツ)
--あなたは05年時点で今回の金融危機の到来を警告していました。危機後に米国などが決めた金融規制改革は、同様の危機が起こるリスクを低下させるでしょうか。
米国の金融規制の影響に関しては、詳細が合意され実施されるまではわからない。住宅金融のように、今回の規制の対象とされなかった金融セクターも多い。また、ノンバンクやヘッジファンドなど、「影の金融セクター」の問題に十分に取り組んでいるとはいえない。おそらく最も重要なのは、『フォールト・ラインズ』で述べたように、危機に対する政策のあり方であろう。今も米国連邦準備制度理事会(FRB)が失業率を引き下げようと一段と積極的な金融政策を行っているが、ほとんど効果が上がっていない。
金融マクロ政策では失業は改善できない
--著書では、賃金の停滞を補うために消費者信用が急拡大したことが、米国の住宅バブルの主因だったと述べています。
そう、われわれは住宅を造りすぎたのだ。バブルの過程で、あまりに多くの人々が高校卒業前に学校を離れ、住宅業界の熟練を要しない職を求めた。今、そうした労働者はレイオフ(一時帰休)されている。もう探しても住宅業界には仕事がない。構造的な失業問題が発生してしまったのだ。金融政策や財政刺激策だけでは、彼らを労働力へと復帰させることはできない。必要なのは、技能の養成や職探しの支援などミクロレベルの手段だ。それなのに米国は、彼らの仕事を作るために、(マクロの)景気を刺激しようとしている。