ピアニスト「反田恭平」が飛び抜けている理由 新しい形でオーケストラを運営する意味とは?
こうした新しい形でオーケストラを運営する意味を、反田氏は次のように説明する。
「オーケストラの奏者にあって、僕たちピアニストや指揮者にないのが定年退職なんです。奏者にもぜひ同じ気持ちを味わってもらいたいと(笑)。いい意味としては、JNOで培った音楽性や技術を世界で発揮してもらうべく、終身雇用のない短期契約にしているわけです。でも、希望すればいつでも帰ってこられるホームグラウンドでもある。これだけで、フレキシブルで新しいオーケストラの形を示すことができたと思っています」
細部を補足すると、JNOはDMG森精機の寄付による森記念製造技術研究財団と、これも反田氏が代表を務める音楽事務所、NEXUSが共同出資して2021年5月に設立。奈良を拠点にしながら、定期公演やソリストのコンサート、音楽配信、音楽サロンでのファンとの交流や音楽指導を軸に活動していく。
若手ソリストを育成する学校が夢
反田氏がJNOで目指す夢が、若手ソリストを育成する音楽学校の設立だ。理想とするのは「オーケストラを擁し、優れたソリストの輩出を支える学校」という。
「野球の練習でも、壁打ちばかりなのと、キャッチャーがいてアドバイスしてくれるのとではステップアップの速さがまったく違いますよね。同じように、一人で弾いているよりはオーケストラが伴奏をしてあげれば、歴然とした差が出てくる。ですが、専属のオケをもって親身に授業をやっている学校は世界的にもなかなか存在しません。ソリストを育てるうえでは絶対に必要だという、その思いが僕の原点です」
またJNOをウィーンフィルやベルリンフィルなどに比肩しうる、日本を代表するオーケストラに育てたいという思いもある。
ロシアやポーランドといった留学先でさまざまな海外の学生と接し、日本のクラシック音楽界について感じるのは「お国柄なのか、音楽をやるうえでの覚悟、ハングリー精神が低い」ことだそうだ。確かにある程度豊かな日本では、音楽に携わる人が多い一方、皆が皆、音楽で経済的に自立できているわけではない。
一つには、芸術を精神的なもの、お金は世俗的なものと考える国民性がある。そのため芸術とビジネスを切り離して考えがちだが、実際にはそんなことはない。ハイドン、モーツァルトを始め、クラシック音楽の作曲家にとって、スポンサー探しや活動費用の捻出も仕事の一部。大作曲家と言えど生活苦と隣り合わせだった。それゆえ、ハングリー精神をもって音楽に取り組んでいたのである。
そうした歴史を振り返ると、反田氏の目指すクラシック音楽業界のあり方も理解できる。
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