アメリカが「日韓関係改善」を強く迫れない背景 バイデン大統領のアジア訪問で進展はあるか

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日本政府はなお、文政権との苦い経験を引きずっている。「日本国民は、うまく騙されたと感じている」。この問題に詳しい人物で、バイデン政権に近いアメリカの元高官はこのように話す。そして、「日本人は今、傍観者の立場を取っている」としながらも、「ボールは日本側のコートにある」と付言している。

岸田首相は自民党内部から批判を受けている。首相は党内において、主に、外相時代の2015年に日韓合意の交渉に携わった自身の役目により「親韓派」とみなされてきたのだ。

4月末にドイツのオラフ・ショルツ首相が訪日した際、ベルリンにある「慰安婦」の被害者を記念する銅像の問題を、首相が異例ながら提起する決定を下した背景には、そうした事情があるのかもしれない。

アメリカからの「圧力」が必要か

「日本の右派は、日本にとって韓国は必要でないとすでに腹を決めている」とハリス氏は言う。「岸田首相が韓国との協力が重要だと考えているのであれば、それ相応の明確な説明をしなければならないだろう」。

ところで日本の政治指導者らはこれまで、韓国との関係改善というリスクを取るにあたり、特に戦時中の歴史的問題に対処する際にはしばしば、アメリカからの明白な圧力を必要としてきた。バイデン大統領は、この問題に関して個人的な経験を有している。自身が副大統領であった時代、当時の安倍首相と朴大統領との仲裁において主要な役割を果たしたのだ。

今回の訪韓の中で「日韓の歴史問題が再優先課題として議論されることを示唆するものはなにもない」とハリス氏。しかし、水面下で実際の行動が取られる可能性はあると、同氏は言う。「バイデン大統領が同席する中で、歴史問題が大きな比重を占めたとしても、私は驚かない」。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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