広がる働く女性の格差【下】 非正規雇用
派遣大手のテンプスタッフによると、派遣登録者の就業率は年代別に変化はなく、どの世代も8~9割が就業できているという。「銀行などはむしろ年齢の高い女性を『落ち着いている』と好む」(同社スタッフィング企画部)。
同社はまた、20代女性が経歴と不相応に高い時給を求めるのに比べ、30~40代はさまざまな条件に対して現実的なため、派遣先を紹介しやすいという。だが実際には、現実的にならざるをえないほどこの世代は厳しい実情に直面していると見たほうが正しいだろう。
都内のシステム開発会社で派遣社員として働く鶴田佳代子さん(46、仮名)の給与は、今が最低だ。時給1400円、手取りの月収は約18万円。数年前に重工業大手に派遣されていた当時は、時給1750円、月収26万円だった。「夫も非正社員で、2人合わせても月収は三十数万円。しかも、風邪でも引いて数日休めばたちまち減ります」。
進む所得の「女女格差」 妊娠打ち明け雇い止め
年齢に比例して収入が伸びないのも非正社員の特徴だ。勤続5年未満の年収は正社員の7割程度だが、鶴田さんと同年齢層の勤続20~24年の段階では5割程度にとどまっている(上右グラフ参照)。富士通総研の渥美由喜・主任研究員は「一度非正社員となった女性はその後も非正社員のレールに乗らざるをえず、所得で”女女格差”が出てくるようになった」と指摘する。
「派遣ってよさそうですね」。鶴田さんは最近、職場の若い正社員女性に言われ驚いた。「正社員より自由に見えたみたい。派遣なんて絶対なっちゃダメ、と諭したけれど」。
鶴田さんの実感では、正社員以外は企業にとって都合のよい労働力にすぎない。8年働いた会社では残業も正社員並みにこなしたが、「新入社員が入るので」と契約を打ち切られた。社外労働組合に相談したが、「あなたの場合はどうにもならない」と告げられた。
本来、労働者派遣法では派遣社員を3年以上受け入れた場合は、原則として直接雇用を申し入れる義務が企業側にある。だが鶴田さんの場合、契約書上の受け入れ部署は3年未満で変わっていた。「実際には同じような仕事を続けていたのに。正社員の代わりに切り捨てられたみたい」。
07年に放映された民放ドラマ「ハケンの品格」は、「働くことは生きること」というメッセージが多くの働く女性の共感を集めた。だが、派遣社員を支援する全国コミュニティ・ユニオン連合会の鴨桃代会長は、「あれほどスーパーウーマンでなければ、派遣労働者は権利を主張できないのだろうか」と疑問を呈する。
会に寄せられる声は「妊娠したと相談したら、契約更新されなかった」「14日連続勤務で苦しいが、つらいと訴えると雇い止めされそうで怖い」など、悲痛なものが少なくない。
前出の佐藤さんは最近、給与明細に会社側からの文書が添えられているのに気がついた。「働きたいお友達はいませんか? ぜひ紹介してください」。「そんなに人手が足りないなら、どうして今いる人を長く雇わないのか」と怒りがこみ上げた。
会社は直接雇用化を進める理由を、「コンプライアンス向上のため」と説明したという。日雇い派遣など非正社員をめぐる問題を受け、同様の試みを進める企業は全国的にも増えている。その試みが、非正社員の女性らの待遇改善につながるかはまだ未知数だ。
(週刊東洋経済編集部)
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