広がる働く女性の格差【下】 非正規雇用
女性の社会進出にともない、多くのキャリアウーマンが高い地位・所得を実現している一方、格差の問題も深刻になっている。シングルマザーと非正社員女性という”鏡”に映し出される日本をレポートする。
(週刊東洋経済2月9日号より)
「直接雇用になっても何にも変わらない。給料も、不安感も」。札幌市の佐藤理恵子さん(34、仮名)はつぶやく。派遣先の企業が今秋から、佐藤さんら派遣社員を直接雇用すると決めたのだが、示されたのは落胆する条件ばかりだった。
新しい雇用形態は契約社員。期待した正社員ではなかった。賃金は現在と同額で、将来の昇給はないと明言された。最もショックだったのは、半年更新の雇用契約は3年を上限に打ち切るということだ。現在でも会社は勤続3年以上の派遣社員に対しては原則、契約を打ち切っている。
直接雇用でも派遣でも、正社員でなければ同じ。そう痛感した。「3年後には37歳。その後、どうしよう」。3年間の猶予を選ぶより、いっそ今転職か。求人情報誌を繰ったが、大半の採用条件が30歳以下だった。
働く日本人女性の主流は今や、佐藤さんのような非正社員だ。03年に初めて正社員を上回り、直近では53・4%に上る。日本の女性就労を端的に示す「M字カーブ」の改善を支えているのも非正社員。M字カーブは、15歳以上の女性に占める労働力人口(就業者と求職者の合計)の比率をグラフ化したもの。日本では20代後半~40代前半が離職し出産・育児に専念しがちなため、この世代の労働力人口が落ち込み、M字の谷を描いてきた。
近年この世代の就労が増え、谷底の線が少しずつ上がってきている。だが雇用形態で内訳を見ると、35歳以降では非正社員が労働力の主流となっていることが分かる。
20代後半から40代までといえば、本来ならキャリアを積み上げ、職場の支柱となる年齢だ。だが都内の派遣社員、福井里子さん(38、仮名)は「キャリアアップなんて、ずっと以前に考えなくなりました」と語る。「とにかく途切れずに働く。そして毎月の収入を確保する。それだけを考えています」。
派遣になって約4年。雑誌や書籍の編集という業務は一貫しているが、派遣先は転々とし、すでに10社を超えた。派遣期間が長くて1年、最短1週間と短い。
児童書を作るのが夢で、編集者を志した。だが正社員で働いていた専門出版社で給料の相次ぐ遅配に遭い、耐えられず退職。派遣社員になっても編集業を続けているのはもはや夢のためではなく、「派遣先企業の規模を聞けば、給料の額や仕事の内容が大体わかるから」。
月給の半分は同居する母親に生活費として手渡す。残る半分を、キャリアアップにつながるかどうかもわからない自己投資に費やすのは不安だ。
幸い、これまで仕事はあった。「でもこの先どうか。次の仕事はあるのか。つねに不安です」。同じ職場の40代の先輩は、40歳を超えると派遣会社に「仕事ありませんよ」と言われるようになったという。