シェール開発、早すぎたバブルの終焉 環境破壊、原油下落…米国生産現地ルポ
12年、夫妻は「ガス採掘が人間と動物に及ぼす影響」という論文で、汚染の影響を受けやすい家畜のオーナーへの調査を行った結果を発表した。すると2日以内にオーストラリアの新聞が掲載し、各国の多くの媒体も数日内に論文を取り上げた。
その後、夫婦はシェール論争に揺れる街々で、講演やワークショップを開き、地域住民や農家に警鐘を鳴らし続けてきた。論文や書物も次々に発表した。
「地域での反対運動も盛り上がった結果、ニューヨーク州北西部の世論は、『フラッキングNO』にシフトしてきたと思う」(オズワルド)
シェール層は、実は、人類が触ってはいけない「聖域」だったという。前出の石油技術博士アントニー・イングラフィアも08年ごろからフラッキングについて関心を持ち、研究を進めていたが、その結論は明らかだった。
「ばかげているとしか言えない。高コストな技術を使って、リターンが異常に少ない。しかも健康に悪い。さらに気候変動がこんなに世界的に問題になっている最中、人々の裏庭や農地にフラッキングを持ち込むのは、懸念が大きすぎる」
原油価格の下落が影響
イングラフィアら科学者グループと、住民運動の側面から連携したのが、地域の環境保護活動をしていた前出の「サステイナブル・トンプキンズ」のニコルソン会長らだ。
イサカは、氷河で形成され、滝やブドウ畑など美しい自然に恵まれたケイユガ湖に接している。同湖を含む無数の湖があるフィンガー湖地域に、シェール開発の計画が浮上した時に、ニコルソンらが立ち上がった。同団体は「ニューヨーク州政府によるフラッキング禁止」を最も早い時期に要請した団体だとい
う。
地域や遠く離れたニューヨーク市の環境・市民団体と連携し、絆を深め、フラッキングの危険性を知らせるイベントで住民を教育し、州都オールバニのロビイストに働きかけ、デモも何回も開催した。
「州政府による禁止というのは、ナイーブだという運動家もいたわ。でも、とにかく、クオモ知事の目にとまるような行動を続ければ、米大統領選への出馬を目指しているかもしれない州知事が、有権者をみて、政治的な判断をせざるを得ないだろうという戦略だったの」(ニコルソン)