愛知「豊橋」にブラックサンダーコラボが多いワケ 1日3万個を売り上げる名物になった「あん巻き」

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鬼まんじゅうとは、小麦粉に砂糖を混ぜた生地に角切りにしたサツマイモを加えて蒸した愛知県を中心とした東海地方の郷土菓子である。窮地を救ったのは、奇しくも郷土菓子を作る機械だったのだ。

しかし、まだこれはほんの序章にすぎなかった。最難関だったのは、甘さや口当たり、チョコレートの味の濃淡、生地とのバランスなど味の調整。チョコレートのメーカーである有楽製菓は、ブラックサンダーへの強い思い入れもある。そんなことから、餡に使用するチョコクリームの味をもっと濃くすることを希望した。

一方、お亀堂は和菓子店である。昨今では、和菓子も“甘さ控えめ”が主流になっていて、メイン商品であるあん巻きも例外ではなかった。甘さよりも生地と餡のバランスを重視したからこそ、年間100万個も売り上げるヒット商品になったという自負もあった。

お亀堂の代表取締役社長、森愼一郎さん(筆者撮影)

「試作と試食を繰り返して、お互いがめざす味を完成させるしかありませんでした。その年の9月と10月の2カ月で5回、有楽製菓さんに足を運び、毎回1時間以上にもわたって河合会長と担当の方と協議を重ねました。最終的にお互いの思いを理解し合って合意に至り、ブラックサンダーあん巻きが生まれました」(森さん)

1日3万個を売り上げる豊橋の名物菓子に

2017年11月、豊橋市内と隣町の田原市内にあるお亀堂の直営店と有楽製菓の直営店のほか、キヨスクでも販売がスタートした。すると、購入した客が「食感が新しい!」とSNSで発信し、瞬く間に評判が広がっていった。

これまでお亀堂を訪れていたのは中高年の女性が中心だったが、和菓子店に足を運ばなかった若い世代やブラックサンダーを好んで食べる20代〜30代の男性も多く来店した。しかも、地元のみならず名古屋や三重県、岐阜県など遠方から訪れる客も多かった。

「お客様に話を聞いてみると、豊橋への出張を知った職場の同僚の方から買ってきてほしいと頼まれたり、豊橋や豊川、蒲郡など東三河へ来たついでに立ち寄られたりする方が多くいらっしゃいました。来店されるお客様の裾野が広がったことを実感しました」(森さん)

SNSでの拡散は留まるところを知らず、元SKE48の松井玲奈やお笑い芸人の大久保佳代子といった豊橋や東三河出身の芸能人をはじめ、多くの著名人やスポーツ選手がSNSで紹介した。

発売から1年半で100万個の売上を達成し、2019年度の「愛知県のふるさと食品コンテスト」で最優秀賞(知事賞)を受賞した。さらに翌年には農水省が主催する「優良ふるさと食品中央コンクール」の新製品開発部門で農林水産省食料産業局長賞にも輝いた。

「長い間、豊橋駅にあるキヨスクの売上上位にランクインしていたのは、春華堂さんのうなぎパイ(浜松)や備前屋さんのあわ雪(岡崎)でした。つまり、豊橋には名物のお菓子がなかったんです。ブラックサンダーあん巻きがキヨスクでの売上1位になったとき、河合会長と喜び合いました」(森さん)

ブラックサンダーあん巻きの売上は、コロナ禍となる2年半前から減少しているものの、1カ月で2万5000〜3万個は出るというから、ブラックサンダーとのコラボは大成功と言ってよいだろう。

次ページなぜ、このコラボが実現したのか
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