「海の帝国」は「陸の帝国」の挑戦を退けられるか 21世紀型「文明の危機」の本質を説き明かす

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水野:アメリカとしては、中ロが一体化したら大変厄介で、アジアとヨーロッパの二正面で戦わなければならなくなる。だから中国には、せめて中立的であってほしいでしょう。

水野和夫(みずの かずお)/法政大学教授。1953年、愛知県生まれ。法政大学法学部教授(現代日本経済論)。博士(経済学)。早稲田大学政治経済学部卒業。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)などを歴任。著書に『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』(日本経済新聞出版社)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)、『次なる100年』(東洋経済新報社)など多数(撮影:尾形文繫)

木村:中国も位置取りは難しいですよね。ロシアは今、世界中から「悪の帝国」のレッテルを貼られているわけですから、それと手を結ぶとなれば、中国が2次的な制裁の対象になりかねない。この秋、異例の3期目を目指して世界に冠たる大中華帝国の完遂をめざす習近平氏にとっては、今回の事態は痛しかゆし。そうでなくても順調とは言えない中国の経済成長に、さらにマイナスのドライブがかかることになる。

プーチン氏のロシア国内での権力基盤がどこまで安泰かは不透明だし、中国が単純に「反米・反NATO」でロシアと手を組むことはしないでしょう。中国の対ロ貿易は対外貿易総額の5%程度にすぎません。今後の国際社会は、冷戦のときのような東西陣営の対立といったわかりやすい構図にはならない。ある分野では対立するが、ある分野では協力もする。そういった多面志向のモザイク模様が強まっていくと見るべきでしょう。

いま重要なのは、親ロシアか、反ロシアか、敵か味方か、という色分けをあまりに鮮明にして世界を二分化しないことです。戦況の帰趨はなおわかりませんが、ロシアが軍事的、経済的に追い込まれると、本格的な戦争状態に移行して国民に総動員体制を強いることも想定されます。

侵攻から戦争への局面転換は、避けなければなりません。窮鼠猫を咬む――その揚げ句に見えてくるのは、たとえ限定的であれ戦術核使用という破滅的な事態です。第3次世界大戦への導火線に火をつけかねない。ギリギリのところを見極めることが必要です。

欧米諸国がゼレンスキー大統領のもとで善戦し、意気上がるウクライナへの軍事支援を増強するのは仕方ないところですが、これはたいへん危険なスパイラルに陥りかねません。一方で、冷静で賢明な「出口戦略」を探る時期に来ています。バイデン大統領もプーチン大統領を「戦争犯罪人」とこきおろすだけでなく、悔しいけれども、世界が見えなくなっているプーチン氏をこれ以上暴発させないために、外交的な解決の糸口を何とか探るべきです。

世界が破滅の淵に立った1962年のキューバ危機をとどめたのは、ケネディとフルシチョフ、米ソ首脳の対話でした。そのことに思いを致すべきだと、米コロンビア大学のジェフェリー・サックス教授は主張しています。

グローバリゼーションは脆弱なシステム

水野:ロシアでは、西側の外資の資本が次々と接収されています。多くの人がグローバリゼーションにはこんなにリスクがあったのかと痛感させられたと思います。接収したほうも、たとえば、スタバのコーヒー豆やマクドナルドの加工材料が入ってこなくなるので、あまり価値はないと思うのですが、投資している西側世界からすると、投資した資産が消失するかもしれない。それからロシアからの支払い、配当とかもゼロになるわけで、投資した分が回収できないということになる。

グローバリゼーションというのは、1つの会社のサプライチェーンが月を往復する距離という驚異的な物流網によって支えられている。冷静になって考えてみると、それはかなり脆弱で歪んだシステムだと言えるでしょう。

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