日本人がテロとの戦いに組み込まれる可能性 塩尻宏・元駐リビア大使に聞く(後編)

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しおじり・ひろし●1941年大阪府生まれ。大阪外国語大学アラビア語学科卒。67年外務省入省。中近東アフリカ局中近東第二課地域調整官、在ドバイ総領事を歴任し、2003年駐リビア特命全権大使、06年退官。その後、公益財団法人中東調査会で常任理事、副理事長・業務執行理事を務め、13年から同調査会参与。(撮影:尾形文繁)

仏紙襲撃事件の影響、西欧社会とイスラームとの関係を、塩尻宏・元駐リビア大使に聞く、後編(前編は「シャルリの描き方の違いに見る差別意識」

イスラーム文明に対するコンプレックスも

――西欧キリスト教世界の嫌イスラーム感情の背景には何があるのでしょうか。

西欧キリスト教世界は、自己の文明認識において、「ギリシャ文明に起源を持つ」と主張していますが、ギリシャ文明は一度滅んでアラブ世界に継承されました。ギリシャ語のおびただしい文献をアラビア語に翻訳して医学、天文学、数学、哲学などの諸科学を継承・発展させたのはアラブ・イスラーム文明でした。

西欧は12世紀ころからイスラーム世界の文化・文明を取り入れて、近代文明をテイクオフ(離陸)させました。代数学(algebra)、アルコール(alcohol)、提督(admiral)、砂糖(sugar)、暗号(cypher)、米(rice)、シャーベット(sherbet/sorbet)等々、身近な単語がアラビア語起源であることからもそれが窺えます。

現在の西欧キリスト教世界の心理の底流には、過去のアラブ・イスラーム世界に対するコンプレックスと同時に政治的・経済的優位に立つ現在の優越感とがあるように思います。中世から近世にかけてはアラブ世界の方が文明的にも優位にあったことは西欧の知識人たちも知っていますが、それを認めることには抵抗感もあるように思います。西欧諸国がアラブ・イスラーム世界に対して優位に立つようになったのは近世に入ってからのことです。

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