暴力で騒然「秀岳館」に生徒送ったコーチの"痛恨" サッカー部の暴力の裏に私立高部活の構造問題

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気づいたとしても声を封じられ、SNSで社会に助けてくれとSOSを出すしかなかった彼らの苦しみを、学校はまず吐き出させてほしい。学校ができないのであれば、管轄機関の熊本県知事部局私学振興課は、県教育委員会とともに抜本的な対策を練ることが必要だ。

筆者がリーグ戦を奨励すると、多くのスポーツ指導者たちは「もっと緊張感がないと強くならない」と言う。だが、脳科学の世界では児童生徒を怒鳴るなどして強い刺激を与える指導を「一発学習」と呼ぶ。別名は「恐怖学習」。

スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか
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その瞬間パフォーマンスは上がるものの、成長は継続されない。これに対し、褒めて、認めて、自分で考えさせる指導は「強化学習」と呼ばれ、少しずつではあるが確実に上達する。拙書『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』でも紹介しているが、こうした科学的成果が明らかになっており、スポーツでもそのように科学的、論理的にとらえ直す必要があるだろう。

折しも、3月に全日本柔道連盟が小学生の全国個人戦大会を今年度から廃止することを決定した。廃止した理由のひとつとして、全柔連は過度な勝利至上主義の蔓延を挙げている。団体戦は残るため、その効果に懐疑的な声はあるものの、ほぼすべてのジュニアスポーツでトーナメント方式の全国大会を実施する日本スポーツ界に、議論のきっかけを与えたことは間違いない。秀岳館問題も材料に加え、具体的な改革を期待する。そして、部活の大会成果をアピールして生徒を集めてきた私立高校には、それ以外の付加価値を模索してほしいと思う。

多方面から”刺激”していくしかない

日本スポーツマンシップ協会副会長で岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀氏は「暴力やパワハラをするコーチは全く悪気がない。だから解決が難しい」とため息を漏らす。

「彼らは、全国大会があるのだから勝利を目指すべきで、3年間で結果を出すのなら暴力的な指導も有効な方法論だと考えている。指導者、選手、保護者といった個々への啓蒙とともに、育成カテゴリーの大会でトーナメント方式の全国大会をやめる。多方面から刺激していくしかないだろう」

つまり、ヒューマンエラー、システムエラー両方の解決が必要なのだ。

冒頭で伝えた、教え子を秀岳館に送り出したAコーチは、絞り出すように言った。

「環境を正してもらって、楽しくサッカーができる環境になってほしい。何より、通常の高校生活が送れるよう祈っています」

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文芸家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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