暴力で騒然「秀岳館」に生徒送ったコーチの"痛恨" サッカー部の暴力の裏に私立高部活の構造問題

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Aコーチの言う「覚悟」とは、暴力やパワーハラスメントを受けても3年間耐え抜く気持ちを指す。

これについて、強豪高校の内情に詳しいサッカー関係者のB氏は「指導者の多くが暴力や激しい暴言などのパワハラが残存していることを知っている。秀岳館(の問題)は氷山の一角です」と断言する。

今は選手もコーチもSNSでつながり情報交換をする。B氏は、暴力行為を直接見てはいないが、強豪校のコーチや関係者から今も耳にする。よって、秀岳館の問題が明るみになった際も「驚きはなかった」。

加えて、このような部活動の暴力やパワハラは、勝利至上主義と連動している。B氏によると「全国大会常連校でも、そういった不適切な指導と一線を画したサッカー部はあります。ただ、そうでない学校のほうが圧倒的に多い」と明かす。

不適切な指導とは、暴力はなくても激しい暴言を吐くこと、負けたり指導者の怒りを買った末の“罰走”。言った通りにプレーしなかった、ミスをしたという理由で試合に出さない「干す」という方法などだ。指導者自身が求心力を示したいという理由で、暴力を指導の道具にしてしまう。

「健全な育成」と程遠くなる背景

スポーツの育成は本来であれば、小学生年代から中学に、中学から高校へ、高校から大学や社会人、プロへと伸びしろを残して渡す。スポーツの楽しさ、面白みを感じさせながら、主体的に取り組み、成長し続ける力を養うのが望ましい。そんな豊かで健全な育成を実現しているチームは、あと伸びする選手を複数出してくる。ところが、暴力などが残るブラックなチームの指導は、健全な育成とリンクしない。

「なぜなら、そもそも目的が違うからです」

強豪校は勝つことを目的とするチームが多い。実際、監督やコーチ自身も、勝たなければ辞めさせられたりする。

少子化で生き残りをかけた運営を強いられる私立高校には、スポーツで注目されることで生徒を集めたい学校もある。それにリンクした装置として、負けたらおしまいのトーナメント制で実施される全国大会の存在がある。

高校サッカーにおける最大の装置は、夏のインターハイ(全国高校総体)と冬の風物詩とまで称される全国高校選手権の2つだ。特に、全国選手権は1回戦から民放の地方及び全国ネットで生中継され、連日報道される。都道府県予選も多くが準決勝くらいから生中継される。学校名を全国に知らしめる宣伝効果は絶大だ。

それに加えて、部員が多ければ、生徒の定員確保がしやすくなり、学校経営が安定する。

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