暴力で騒然「秀岳館」に生徒送ったコーチの"痛恨" サッカー部の暴力の裏に私立高部活の構造問題

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例えば秀岳館。現在、事件の影響で学校の公式サイトが閲覧できないため正確な数字は不明だが、野球部が夏の甲子園に出場した2017年度で、生徒数1164人中女子が411人とある。似た割合という前提で考えると、2022年度は約1000人の6割600人を男子と見積もれば、200人のサッカー部員は男子全体の実に3分の1を占める。

他方、2021年度に全国高校選手権に出場した48校の部員数を見ると、最多が276人で、200人台は3校、190~180人台は4校。48校中実に29校が100人超えで、そのうち私立高校が26校を占める。

Jクラブのアカデミー(下部組織)の18歳以下は1学年で15名前後が主流だと聞く。3学年で40~50名であることを鑑みると、いかに多いかがわかる。当然ながら各々のサッカー部に魅力があるのだろうが、前出の男性は「選手という名の生徒だ」と憤る。つまり学校にお金を落としてくれる存在として期待されているということだ。

トーナメント式の全国大会が抱える大問題

では、どうすれば暴力指導問題を解決できるのか。ひとつの方策として、B氏は「小学生だけでも全国大会を廃止してほしい」と話す。どういうことか。

日本サッカー協会が設ける「暴力等根絶相談窓口」に寄せられる相談の内容は、2019年は247件のうち、暴力43件、暴言威嚇127件。被害者で最も多いのは小学生年代だった。2013年に採択された「暴力行為根絶宣言」は身体的暴力のみならず、言葉や態度で子どもを威圧する行為についても「スポーツの価値を否定する暴力」と定めているが、容易には理解されない現実がある。

トーナメント方式の全国大会が廃止されれば、過度な勝利至上主義の抑止力になるはずだ。リーグ戦が主流の欧米スポーツ先進国に倣って地域ごとのリーグ戦を活動のメインにすれば、週ごとなどで出てきた課題に取り組みつつ、全員が試合に出場してチームの底上げができる。この年代で豊かな育成を経験すれば、楽しみながら主体的に取り組むスポーツの本質が醸成される可能性がある。

秀岳館の問題は、テレビで虚偽の報告をし、支離滅裂な怒号を録音されSNSで流された段原監督や、体罰動画が拡散された末に書類送検されたコーチに注目が集まる。だが、決して彼らの個人的な問題、つまりヒューマンエラーだけの問題ではない。勝利至上主義が蔓延る中でのシステムエラーが根底にあるのだ。

システムエラーが修復されれば、秀岳館のような問題は起こりにくくなる。万が一、未熟なコーチが暴力をふるったとしても、暴行したのはコーチで、被害受けた側である自分たちが謝罪や釈明の動画を投稿するのは筋が違う、対応するのはあくまで学校だと部員たちは言えるはずだ。

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