冨山和彦氏、大学教員の「選民意識」にモノ申す 日本の大学教育は大多数者の役に立たない

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日本の大学教育は、丸の内にオフィスがある大企業で働くような偏差値的エリートだけを想定しています。しかし日本経済は今や中小企業が主役です。大企業で働く人の比率は過去20年間減少し、今や10%台しかない。圧倒的多数の人は中小企業で働いているのです。そして中小企業は雇用の流動性が高いのが特徴です。かつてのように、いわゆる一般教養を大学で学んで会社に入り終身雇用で勤めあげるという人は、今の若い世代では極めて少数です。そして今後も増えません。

この前提で、どうしたら大多数の働く人の地位を安定させられるかを真剣に考えなければなりません。労働市場側では同一労働同一賃金を徹底し、最低賃金を引き上げることが必要です。労働監督も厳しくしたほうがいい。これらと同じように不可欠なのが、企業を越えて普遍的に有用な専門技能を学ぶ場です。労働市場の問題と同様、教育についても本音で議論しなくてはダメですよ。

実学がないからアカデミズムも弱る

私はアカデミックを否定しているわけではまったくありません。高等教育は、アカデミックスクールと実学を教えるプロフェッショナルスクールの「二山構造」にするべきだと言っているのです。日本以外の先進国はどこも基本的に二山構造です。日本だけ実学の山がないというのは、ある種の職業差別といっても過言ではありません。

僕がMBA(経営学修士)を取ったスタンフォードでは、「アクロス・ザ・ストリート」というのですが、アカデミックスクールゾーンとプロフェッショナルスクールゾーンが道路1本を隔てて隣り合っています。それぞれに高い評価を得ていて、優劣はありません。ビジネススクールからはノーベル経済学賞の受賞者を何人も輩出しています。そもそも社会科学の世界では、実学とアカデミズムの境界があいまいなのです。日本の社会科学が世界的に高い評価を受けていない理由のひとつは、実学と切り離されているからです。

――実学を軽視したことで、アカデミズムまで弱体化したと。

そのとおり。だから日本の社会科学にはノーベル賞の気配がほとんどない。賞を取りそうな日本人って、みんな海外でキャリアをつくった人でしょう? 青木昌彦さんも清滝信宏さんも。とにかく、日本の高等教育を二山構造にするということが議論のゴールだと僕は思います。

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