つまり師団単位の機甲部隊が揚陸してくる、それに備えるというのは現実的とは言えない。言い方は悪いが妄想レベルかもしれない。昨今ではウクライナ情勢を見て「北海道が危ない」と煽る政治家も出てきているが、陸続きのウクライナですらあれだけ苦戦しているロシアが、海上でしかもインフラが乏しい沿海州を起点としてわが国に攻勢を仕掛ける能力も理由も実際には乏しい。
この資料を通じて財務省が述べているのは、以下の通りである。
脆弱性を放置し続ければ相手国に狙われる
<○ 真に有効な防衛⼒を持つため、現実を直視した議論をするべきではないか。
安全保障環境が⼀層緊迫化し、対応するための時間が限られる中で、「真に有効な防衛⼒」を持つことが必要。
そのためには、⻑年維持してきた防衛態勢、成果を得るために多くの時間と費⽤を要する研究開発、構造的な課題を抱える我が国の防衛産業などについて、様々な課題を洗い出し、現実を直視した議論を正⾯から⾏なければならない。
○ 経済・⾦融・財政⾯における「脆弱性」の低減と防衛⼒強化をいかに両⽴させるか。
経済・⾦融⾯では既に有事対応となっている中、我が国⾃⾝に軍事的有事が⽣じれば、あらゆる状況が⼀変し、我が国に深刻な影響。
脆弱性を放置し続ければ、その脆弱性・姿勢を相⼿国に狙われるおそれ。
防衛⼒は、国⺠⽣活・経済・⾦融などの安定があってこそ。
防衛⼒強化のみならず、経済・⾦融・財政⾯の脆弱性を低減しなければ、必要とされている「抑⽌⼒」や「継戦能⼒」を強化・確保することにはならない。>
つまり借金して安易に軍拡をして、国の負債を増やしても中長期的な防衛力の整備にはならない。むしろ軍拡によって国庫が逼迫、破綻すればそれは国の体力を奪って将来の国防に割くリソースを減らすことになるということだ。
自民党は「NATO(北大西洋条約機構)基準に追いつけ」と主張するが、この資料でも述べられているNATOは、軍事費増大と併せて財政基盤の強化を進めている。対してわが国では「野放図に国債を発行して軍拡しろ」である。このような主張が政権与党として責任あるものか、有権者はよく考える必要があるはずだ。
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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani
1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。
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