日本経済の将来に関しては、単に「新しい経済を作る」という抽象的なことでなく、具体的な方向を示すことができる。
第1の課題は、中国工業化への対応だ。
日本では、これまで他国と分業を進めるとの発想が弱く、日本の中で、あるいは1つの企業中で事業を完結させるという考えが強かった。
そして、賃金を固定して円安政策を取ることによって、価格で競争をする方向を選んだ。
しかし、その方向づけが、現在までの停滞を生んだのだ。そして、冒頭で述べたような貿易収支の悪化をもたらした。
だから、すべてを日本で完結させるという考えではなく、新しい世界の中で、分業関係をどう築くかという考えに転換することが必要だ。
そのための第1の課題は、製造業においてファブレス化(工場のない製造業)を進めることだ。
これは、世界的分業の中で日本のあるべき位置を確立するということである。そして、これに関する1つの重要な方向が、「ファブレス化」なのである。
ファブレスが製造業の生産性を飛躍的に高めることは、アップルが明確に示した。アメリカでは、アップルだけでなく、NVIDIAなど多くのファブレス企業が登場している。
日本はこの方向への変化が著しく遅れている。
キーエンスがファブレスだが、それ以外には目立ったファブレス企業が誕生していない。
ビッグデータの活用を目指せ
日本に要求される第2の課題は、1990年代以降に進展した情報化への対処だ。
しばしば、「デジタル化が必要」と言われる。
デジタル化の内容として通常言われることは、主として、インターネットへの対応である。それは必要なことだ。しかし、それだけでは世界水準に追いつくだけのことであり、決して十分ではない。
従来のタイプの製造業(ものづくり)は中所得国や発展途上国に移行し、先進国の世界経済は、これまでのタイプの製造業から情報産業に重点を移しつつある。
だから、情報によって収益を上げられるような新しい経済活動を、日本でも発展させることが必要だ。
中でも重要なのが、ビッグデータを用いた経済活動だ。
その場合のポイントは、ビッグデータをいかに収益化するかである。ビッグデータは、これまでの情報やデータとは違う新しい性格のものだ。したがって新しい対応が必要である。
だが、残念なことに、ビッグデータの活用は、アメリカの巨大ITプラットフォーム企業によって独占されている。
そして、日本はこの面で著しく遅れている。
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