フィリピン大統領選が「国外で」盛り上がる理由 世界屈指の出稼ぎ大国、在外投票候補者が注目

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南部ミンダナオ島の地方都市の市長で、中央政界での経験も乏しかった父ドゥテルテ氏の大統領選は横綱相撲というわけではなかった。情勢調査でも滑り出しは3、4番手だった。終盤に大きく支持を伸ばした勝因の第1に上げられるのが、巧みなSNS戦略だ。熱烈な支持者の一団が、大量の応援投稿と他候補への攻撃を組織的に繰り返した。SNSの伝播力は国境を越えて在外の同胞にも確実に伝わっていた。

その再現を狙い、ボンボン・サラ陣営がまず海外でのキャンペーンに力を入れ、対抗するロブレド陣営とその支持者も後を追った形だ。資金力・組織力で劣る他の候補らは海外まで手が回っていない。

ブレッドウィナー(1番の稼ぎ手)の影響力

フィリピンの選挙で投票するには有権者登録が必要だ。在外投票では在外公館に登録し、正副大統領選と全国区の上院選、そして下院の政党リスト制の議席についてのみ在外公館か郵送で投票する。

ロブレド氏のビデオメッセージを見る支持者たち(写真・柴田直治)

選挙管理委員会によると、今回の登録有権者は全体で6572万人。うち在外の登録者は167万人だ。数字の上では2・5%を占めるに過ぎないが、電話代がかからないネット時代となり、在外フィリピン人の多くはSNSのアプリを使って毎日にように母国の家族と通話している。在外者のほとんどは家族の生計を支える「ブレッドウィナー」(1番の稼ぎ手)であり、家庭内での影響力は大きい。

フィリピンの選挙で海外戦略が意味を持つのは、世界屈指の出稼ぎ大国であるからだ。人口の約1割に当たる1000万人以上が海外で暮らす。仕送りの総額は銀行間送金だけでも国内総生産(GDP)の1割を占めている。

在外投票が始まった2004年の大統領選で30万人だった登録者は、2010年に59万人、2016年に138万人と毎回、確実に増えている。ネットを通じてリアルタイムで情報が得られることもあり、母国のリーダー選びへの関心は高まっている。

投票方法や選挙期間、在外人数はもちろん違うが、2000年に始まった日本の国政選挙の在外投票では、過去最高でも投票者は世界で約3万人。投票者数は横ばいから漸減傾向だ。2021年の衆院選では登録者約10万人に対して投票者は2万人を割り込んだ。海外在留邦人数は世界全体で135万人。フィリピン人に比べてはるかに少ないことを勘案しても、母国の選挙にかける熱意の差は歴然としている。

ちなみに駐フィリピンの3公館(マニラ、ダバオ、セブ)で投票した日本人は220人。一方、日本にあるフィリピンの3公館(東京、名古屋、大阪)で有権者登録したのは今回、7万人。

フィリピンの選挙では今後、こうした在外の活動がさらに広がると予想される。日本各地でも風物詩となるかもしれない。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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